第六話 幼児期E
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さんが泣いている姿なんて、初めて見た。母さんはいつも笑いかけてくれた。どんなに仕事が忙しくても、どんなにつらい時でも、俺たちの前では決して泣いてる姿を見せなかったから。
もちろん俺だって、それが全てとは思っていなかった。俺たちに見せない顔があるのは当然だってわかってはいた。それでも、こうやって母さんの泣き顔を、辛い表情を見てしまうと…込み上げてくるものがある。
俺では母さんの涙を拭いてあげることはできない。今俺が行っても、母さんに無理をさせてしまうだけだから。心配させてしまうだけだから。俺が母さんの息子だから、母さんは今の自分を見られたくないはずだ。
『……ますたー』
「大丈夫。寝ようか、コーラル」
俺は音をたてないように扉を閉める。母さんに溜まっているものが少しでも流れて欲しい。今は泣かせてあげるべきだと思った。それしか、今の俺にはできないから。
「なんで俺、子どもなんだろ。なんで母さんの涙を止められるような、力がないんだろう」
『それは…』
「悪い、なんでもない。コーラルもお疲れ様、ありがとう」
『いえ、ますたーも無理をしては駄目ですよ。…絶対に』
「はは、うん。わかったよ。おやすみ、コーラル」
『おやすみなさい、ますたー』
俺はベッドに身体を倒し、目を閉じた。
俺にとってプレシア・テスタロッサは、物語の登場人物でも、他人でもない。大切な、大切な母親。失いたくない俺の守りたい人。
こんなにも俺たちのことを愛してくれているんだって、その思いがひしひしと感じられた。
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