第六話 幼児期E
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なら、問題はありませんでしょう」
そんなこと。プレシアは男の言葉に激昂しそうになる自身を抑える。唇を噛みしめ耐えなければ、今にもその残念な髪をツルペタになるまで黒焦げにしそうだった。そよ風ですらなびくような髪ばかりの上層部。もう抜いたらどうだろう、と何回思ったことか。
プレシアの視線が自身の頭に向いていることに気付き、2人は咄嗟に身構える。さっきまで書類にしか目を向けていなかった男も、微妙に額に汗を浮かび上がらせている。そこまで大事か。
さすがにこれは地雷だったかと気づき、男は咳払いをして場の空気を元に戻す。大魔導師にキレられるのはごめんらしい。
もっとも彼女の2人の子どもは、上層部にとって大魔導師の枷になってくれているのは事実である。駆動炉の完成まではプレシア・テスタロッサは必要な人材だ。故に彼女がこの開発に携わった時から、その子どもを脅しの材料にと上層部は考えていた。
もちろん実際に手を出す気はない。なぜなら、彼女は自身の家に自ら結界を張っているため侵入もできないからだ。だが、言葉に示唆するようなニュアンスを含ませれば、それだけで大魔導師は沈黙した。それだけ子どもたちを危険な目に合わせる可能性を捨てられなかったのだ。
「とにかくこれは決定事項だ。それでも上に逆らいますか?」
「……いえ、わかりました。しかしこれ以上開発者を使い潰すような扱いは、開発の妨げになると思いますよ」
プレシアは失意を目に浮かばせる。過去に何度も取り次いできたが、返された返事はすべて拒否だった。主任としての立場、母親としての立場。本部の一室から外に目を向けると、そこには雨風が吹き荒れている。その奥には子どもたちが待つ寮が見えた。
すぐそばにいるのに、子どもたちに会えないことが、寂しい思いをさせてしまう現状が、彼女を苦しめていた。
彼女は一礼すると、本部の部屋から退出する。少しでも仕事を進ませる必要がある。1人廊下を無言で進みながら、プレシアは現状を憂うことしかできなかった。
「ところで、開発が終われば管理部門に転属したいと言っていましたが、よろしいのですか? 主任である彼女はこちらの情報をある程度知られていますが」
「いくら大魔導師と言えど、組織に刃向うことはできまい。時間も伝手もなく、なによりも証拠がない。書類の隠蔽は問題ないのだろう?」
「はい。万が一事故や不具合が起こっても、開発チームや我々に反抗的な者達の仕業に仕立て上げられます。裁判になってもこちら側に抱き込んでいますからね」
「ふん。それに金でもやればいくらでも事は足りるだろう」
「えぇ。まったくもって」
******
「ただいま」
深夜を少し過ぎた頃、プレシアは家に帰宅する。リビング
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