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その男ゼロ ~my hometown is Roanapur~
#51 "Members of Lagoon & Co."
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かんだ。
人も賽子もどちらも同じ。
人生というゲーム盤を進める為に、人は自らの意志で自らを投げ込む。
進む方向は自らが決める。
決める事が出来るからこそ人は自由であるのだと。

ロックが、かの変わり者で斜視の老人を知っているかどうかは知らんが、今この言葉を伝えたらどう思うだろうか。
俺が実際に言葉にする事は決してなかったのだが。

「アイツがはっきり言葉にして頼んだ訳じゃない、なんて事は分かってるんだ。
何もかもアイツのせいでこうなった、なんて八つ当たりをする気もない。
それでも、それでもね。
つい、こう考えてしまうんだよ。ダッチ。
もしもアイツがラグーン商会に居なかったとしたら俺は一体どうなっていたんだろう、と」

人は誰しも仮定の未来を夢想する。
もしもあの時、あの場所で、彼と、或いは彼女と出会わなければ自分の現在(いま)はどう変わっていたのだろうか。
何も変わりはしないのだろうかと。
それが全くの無意味な行為と十二分に理解していたとしてもだ。

組み合わされたままの両手を膝に乗せたまま、俺は沈黙を保ち続ける。
カップの珈琲は既に冷めきってしまっているようだった………

















Side ベニー

「失礼。少々待たせてしまったかしら。ちょっと雑務に追われてしまっていたのでね」

「い、いえ。それほどでも………」

この部屋、いやこのビル全体か、の主が開かれたドアより姿を表し、僕の正面にある自らの席に着くまで思わず直立不動の姿勢を取ってしまった。
声も若干裏返っていたような気もする。
全く何だって僕がこんな目に………

「楽にしてくれて構わないわ。貴方を招いたのは此方側ですもの。
不調法なロシア人でも最低限の礼儀は備えているつもりよ」

そう言って彼女、ホテル・モスクワの女首領バラライカは口角を僅かに上げた。
それは恐らく微笑みと呼ばれる類いのものだったのだろう。
既に獲物をその長い爪で押さえ込んだ肉食獣の表情(かお)をそう呼んで良いのならだけど。

ラグーン商会に僕が入ったのはもう二年ほども前の事になる。
その間にバラライカと会う機会が全く無かったわけではない。
仕事絡みでしょっちゅう、という程ではないが何度も顔は合わせた事はある。
ただ本当に顔を合わせる程度だ。
もしかしたら言葉を交わすのだって、今回が初めてだったのではないだろうか。
それが何だって『ブーゲンビリア貿易』ビル、ホテル・モスクワの根拠地だ、に連れて来られてバラライカの執務室でたった一人で向かい合う、なんていう経験をしなくてはならないのだろう。

背後に副官のボリス氏を従えたバラライカは笑み、なのだろう
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