暁 〜小説投稿サイト〜
その男ゼロ ~my hometown is Roanapur~
#51 "Members of Lagoon & Co."
[1/5]

[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話
【11月3日 PM 2:27】

Side ダッチ

俺がラグーン商会なんてもんを立ち上げたのに深い理由はねえ。
知ってるか?
『働かざるもの食うべからず』なんて言葉が日本(ジャパン)にゃ、あるそうだ。
流石に世界一糞真面目な人種である日本人諸君は良いこと言うじゃねえか。
働いていかなきゃ飯は喰えねえ。
飯が食いてえならキチッと働けってことさ。

どうだ?
世界のどこでだって通用する至言じゃあねえか、こいつは。
道端で物乞いしてる連中。
戦場でマシンガン振り回す兵士共。
麻薬や酒に溺れきっちまって、一日の大半を"あっち側"で過ごしてるようなジャンキー。

パソコンのキー叩いて、椅子に座ったまま何百億も動かすような経営者。
毎日汗水垂らして僅かばかりの銭を稼いでる労働者。

誰でも同じさ。
仕事の内容なんざどうでもいい。稼ぐ金の大小も関係ねえ。
生きていてえんなら働かなきゃいけねえんだよ。

だから始めたのさ。ラグーン商会を。
このロアナプラって糞ったれな街で、この俺自身が生きてゆく為にな。


















「ほう?ウチを辞めてえってのか」

「ああ。アンタには済まないと思うけど。そう決めたんだ、俺は」

此方を真っ直ぐに見ながらロックが口にしたその言葉が耳に届いても、俺は特に振り向こうとはしなかった。
奴がこの事務所に入って来た時に見たであろう光景のまま。
いつものようにソファーに座り、入り口に背を向けた姿勢で珈琲カップを傾けていた。
奴が、ロックがそう言い出す事を予想していたって訳じゃねえ。
さっき告げられたゼロの言葉にショックを受けてた、なんて理由はジョークにしては出来が悪すぎる。

俺達の稼業じゃあ、別れなんてそう特別なもんでもない。
じゃあまたな、って軽く告げたすぐ後に路地裏で銃殺死体に変えられた野郎もいる。
裏切り、離脱、背反なんぞ今更語る程のもんでもねえ。
聞き飽きたレコードは棚に仕舞い込んじまえばいい。
引っ張り出して掛けてみたところで、どうせ直ぐに眠くなっちまうだけだ。
出来る男ってのは無駄な事はしねえもんさ。

まあ、今回のロックみてえな例は、ちと珍しいといやあ珍しい。
わざわざ雇い主たる俺にご挨拶に来てくれるたあ、全く律儀なこったぜ。
やっぱ日本人ってやつは………

「聞いてるの?ダッチ」

背中側、つまり事務所入り口の辺りから、ロックの矢鱈綺麗な発音の英語が俺の思考に割り込んでくる。
やれやれ。まだ居やがったのか。
とっくに用は済んだだろうによ。

「ああ。確かに聞いたぜ。
テメエがウチを辞めてえって言ったのはよ。 給料の残りなら、」


[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ