第一話 うつけ生まれるその八
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「今からのう」
「?兄上、一体」
「いいから来るのだ」
吉法師はあくまで弟に対して言う。
「よいな」
「来いと言われれば参りますが」
勘十郎は素直だった。だからこそ兄の言葉にも頷くのだった。
「では」
「勘十郎、一つ言っておく」
吉法師はその素直な弟にまた継げたのだった。
「御主の素直なことはよいことだ」
「有り難き御言葉」
「しかしそれでも疑うべき相手は疑え」
「疑うべき相手はですか」
「戦国の世じゃ。どういった輩がおるかわからん」
こう言うのだった。
「そうでなくとも世の中には様々な者がおるのだからな」
「それは承知していますが」
「承知しているなら気をつけることじゃ。よいか」
言葉が少しきつくなった。そのうえでさらに告げるのだった。
「権六や新五郎の様な相手を認めればそれで忠義一徹できてくれる者ばかりではないのだぞ」
「そして政秀や牛助の様にひたすら忠義を示してくれる者もですか」
「世の中そうした者ばかりではない」
まだ幼いというのにだ。吉法師はこのことを本能的に理解していたのである。そうしてそのうえで弟に対して話すのである。
「そなたはわしが尾張の主となりさらにあがっていくのにわしの補佐になるのだぞ」
「兄上の補佐に」
「時としてわしの名代になってもらう」
こうしたことも告げるのだった。
「その御主がよからぬ者に騙されては困る」
「はい」
「人はよく見よ」
あらためて勘十郎に告げる。
「よいな」
「その言葉肝に命じておきます」
「しかとな。さすれば来い」
「そこにですね」
こうしたやり取りの後で兄に連れて来られた場所はというとだった。そこは広場であり周りにはススキの草が生い茂っている。そして子供達が大勢集まっていた。
「この者達は」
「これから戦遊びをやる」
吉法師はその子供達を見ていぶかしむ弟に話した。
「ここでだ」
「ここでなのですか」
「そうだ、ここでだ」
信長はまた話した。
「わかったな」
「戦遊びとは」
「そなたは見ておくのだ」
「戦わずともいいのですか」
「今は見ておれ」
また弟に告げた。
「よいな」
「それだけでよいのですか」
「今はだ。それだけでよい」
「左様ですか。それでは」
「うむ、よくな」
こうして勘十郎の目の前でその戦遊びがはじまった。吉法師は一方の大将になった。その時にまずは力の強そうな者を何人か己の前に呼んだ。
そのうえでだ。銭を出してだ。それを彼等にやった。
「これは」
「吉法師様、いいのですか?」
「勝ったらまたやる」
吉法師は驚く彼等にこう告げた。
「勝てばだ」
「勝てばまたくれるんですか」
「本当ですね」
「嘘は言わん」
それも保障するのだった。
「
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