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その男ゼロ ~my hometown is Roanapur~
chapter 05 : beginning of the end
#48 "Roanapur summit"
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(タイって土地はどこからも遠すぎるし、どこからも近すぎる。
南米や欧州みてえに余所からの干渉をはね除けんのには向いてねえ)

だからって組織同士で仲良く手え繋いでやっていこうなんざ、それ以上に無理だと思った。
実際小競り合いどころか"大"競り合いだってしょっちゅうだ。
こんなちっぽけな街、いつ吹き飛んだっておかしかねえ。
それでもどうにかこうにかやってきたんだ。今までは。

額から冷たい汗が流れるのを感じ、指でそっと掬いとる。
俺だってカルテルの一員として、ロアナプラって厄介な土地を任されてる男だ。
それなり、どころじゃねえ修羅場だって潜り抜けてきた。
だからこそ、こうしてこの何十人かの人間が(ひし)めき合ってる連絡会って舞台のど真ん中に。
たった四人しか立てねえ場所にいられるんだ。
冷静になんなきゃいけねえ。落ち着かなきゃいけねえ。
分かってる。分かってはいるんだけどよ。

俺はもう一度右側を窺った。顔は動かさねえ。目だけを動かし、そっとだ。

そこに立つバラライカは、変わらず前を向いたままで会話に加わろうともしねえ。
腕を組んだまま張とヴェロッキオの野郎が話してんのを聞いている、ように見える。

俺から見えるのはロシア女の左側面。
火傷の跡なんて無え、綺麗な白い肌を残してる方だ。
火傷でひきつってる右側は俺からは良く見えねえ。
その事を少し残念に思う自分に気付く。
火で汚されたあの肌を見れりゃあ何か分かるのかもしれねえのに、と。

バラライカって女と相対していて、気付くのはコイツが俺達とは全く違う人種だって事だ。
俺達ってのはマフィアだとか、何だとか、そういうちっぽけな意味じゃねえ。
コイツは俺が今まで出会ってきた連中のどいつとも違う。
違うんだ。
噂じゃソ連の元軍人だって話だが、単に元軍人ってだけなら本国に居た頃に散々見てきた。
それもただの元軍人じゃねえ。
国家やら宗教やら主義主張やら。
そんな色々なもんに裏切られて棄てられて、ボロボロになっちまった軍人どもだ。
そういう奴等は大抵同じ目をしているからすぐに分かる。
なんにでも噛み付きたがる犬のような目をしてやがるんだ。

てめえ自身や周りの損得なぞ勘定出来ねえ、する気もねえ。
俺らみてえに意地汚く生き抜いていこうとはしやがらねえ。
なんもかんも諦めちまってる訳でもねえ。

ただ何かを欲しがって。
何かを欲しがってる事を隠そうともしやがらずに。
目ん玉だけをギラギラさせながら、噛み付く相手を探してる。

そんな元軍人連中は腐るほど見てきた。
だから断言出来る。

バラライカって女はそういう連中とは違うんだと。

初めてホテル・モスク
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