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その男ゼロ ~my hometown is Roanapur~
#47 "Uncle SAm"
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一方。
ベテランの作戦要員(ケース・オフィサー)は次々と新天地へと旅立っていく。
日々発言権を失い、かつての力を喪いつつある我が組織としては海外での派手な動きは勘弁してもらいたい。
まして麻薬絡みの事件など以ての外だ。
ただでさえ現政権は内治に目を向けているというのに。
外で気にしているのは中東、或いは中国あたりだろうか。
噂では中東和平にかなり力を注いでいると聞く。
やれやれ、ノーベル平和賞でも狙っているのか………

大統領含め、現政権の閣僚達にはこんな東南アジアの片田舎など全く視界に入っていないだろう。
そう言えば大統領にはベトナムでの兵役忌避の噂もあったな。
余計に目を向けたくなくなるわけだ。

とは言え麻薬がらみで大きな動きがあれば、本国の麻薬検挙にも影響が出る可能性がある。
全く無視を決め込むという訳にもいくまい。
しかもこのあたりの土地は実に揉め事を起こしにくい土地ときてる。
中東なら石油利権という旨味、と言うより国内シンジケートからの要望か、がある。
だが、まさか金になるからといって麻薬の生産地を支配、管理するわけにもいくまい。
何せ我が国は"正義の味方"なのだから。
中央アジアの地下資源を狙うにしても、それこそ中国の顔色を窺わねばならんだろう。
おいそれとは手は出せまい。
あちらも香港返還やら、民主化運動の余波など色々と頭を悩ませていることだろうし。
足元で火事が起こったからといって即座に我が国の介入なぞ認めまい。
第一ベトナムの記憶もまだまだ新しい。
東南アジア(この土地)に兵を送るとするなら、相応の時間と理由が必要だろう。
決して軽視してよい土地ではないのだがな、ここは。
特に最近では"例のテロリスト"がアフガニスタンに潜入したとの噂もある。
往時の我が組織であれば、もっと詳細な情報が掴めるのだろうがな。
何とも、もどかしいところだ。
連中のような狂犬には首に縄どころか、薬でも射って大人しくさせておかなくては、その内とんでもない事をやらかしかねない。
どこまで分かっているのやら………

つまるところ政権、組織、個人としてもこの街には安定していてもらわなくては困るという事だ。
間違ってもバラライカの暴発なんて事態だけは避けなくては………

「おや、何だかお疲れのようだね。
若いからって無理しちゃいけないよ。
まあ、紅茶でもお飲み。
焦ったって何も掴めやしないのさ。
全てを(すく)えるのは主の御手だけ。人の小さな手じゃあ、せいぜい掬えるのは川に浮かぶ葉の一枚くらいさ」

「はい、いただきます……」

そう言って紅茶のカップを持ち上げる。
立ち上る湯気が顎を(くすぐ)り、香気が鼻に届く。
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