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その男ゼロ ~my hometown is Roanapur~
#43 "the last order of valiant soldier"
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。
或いはメニシェフ伍長の分まで運が巡ってきているのかも……
後部座席のドアに身を潜めるように膝まずく。
片膝を立て、左手はドアレバーに。
呼吸を整え、意識を銃に集中させる。
右手の中にあるマカロフを見つめながら。
俺は良い軍人ではなかった。
勿論まがりなりにも遊撃隊の一員として、並の軍人以上であるとの自負はある。
だが遊撃隊のメンバーとしては下から数えた方が早い。
これは謙遜でも自戒でもなく、素直にそう思う。
モスクワからこの街に乗り込んで来てからも、今日まで生き延びて来た。
大尉の下、素晴らしき僚友達と共に。
俺一人だったらとっくに葬られていることだろう、あの共同墓地に。
だが今改めて思う。
俺がこうして生き長らえてこれたのは、俺が臆病な人間だったからではないのかと。
無論、僚友達の助けがあればこそだが。
アフガンでは多くの僚友達が散っていった。
俺なんかより遥かに軍人としての力量に優れ、勇敢に戦った同士達が。
地雷で吹き飛ばされたハリトーノフ曹長には何度命を助けられたことか。
迫撃砲の直撃を受けたチガーノフ伍長は尊敬すべき軍人だった、心から。
今夜のことだってそうだ。
俺が気絶などしなければメニシェフ伍長は助かっていたのではないだろうか。
一人では敵わずとも二人だったならば……
最期まで任務を全うせんとしたであろう伍長と一緒ならばきっと……
銃を握る手に力が込もる。
先程まで感じていた全身を覆うだるさにも似た重さが喪失していく。
銃が自身の一部に、いや自身が銃の一部になっていくような、どこか懐かしい感覚。
外せない、いや外さない。
俺の銃は
(
俺は
)
絶対に外さない。
決して有能でも、突出したものも持っていない軍人である俺でも、不思議と確信できた。
わずかに顔を覗かせ窓から二人の位置を確認する。
二人並んで立っているため、髪の長い方が陰になっていて狙いにくい。
手前の髪が短い方だけを狙うか……
思えば伍長を引き摺って来たのも奴だ。
手に持つ武器から判断しても伍長を直接手に掛けたのは奴である可能性が高い。
その上、奴は伍長の眼を……
呼吸が荒くなる。
いかん、余計な事は考えるな。
あくまでもこれは私的な復讐ではないのだ。
俺は遊撃隊員として任務を全うするんだ。
怒りは正確な射撃に邪魔なだけだ。
銃に余計な感情は必要ない。
一度目を閉じ、改めて呼吸を整える。
初めて銃を握った頃を思い出す。
まだソ連という国があった時代、軍の訓練校にいた頃を。
あの頃はマトモに当たりもしなかった。
しょっちょう教官に殴りつけられた。
同じ部屋の奴にはいつも笑われていた。
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