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その男ゼロ ~my hometown is Roanapur~
#43 "the last order of valiant soldier"
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」
車のベンチシートに横たわりながら自分を叱咤する。
あの子供達は何故か俺を車に押し込んだ後、戻ってこない。
何かあった、のかどうかは分からない。
ただこれはチャンスだ。
もう命数も尽き果てんとする俺に残された最後のチャンスだ。
「ふう…はあ……ぐっ…」
懐に手を入れマカロフを取り出す。
奴等は大きな失敗をした。俺から銃を取り上げなかったのだから。
「メニシェフ伍長……」
取り出したマカロフを顔の前にかざす。
かざした拳銃越しに伍長の顔が車の天井に浮かび上がってくる。
この街に来て幾年か経ち、モスクワ時代には考えられなかったような笑顔を浮かべる伍長の顔が。
俺達は共に生きた。
あの灼熱の砂漠を、
帰還兵
(
アフガンツィ
)
と罵られ、全く省みられることもなかった祖国の街を。
そして、あの共同墓地で誓い合ったのだ。
パブロヴナ大尉の下、我等は最期まで軍人であり続けようと。
アフガンの砂に埋もれる事ではなく、新生ロシアの土に還る事をも拒否した我等に残されたものはただその誓いのみ。
大尉から与えられた任務を着実に遂行する事が遊撃隊員としての義務。
いや、これは義務などという誰かに押し付けられたものではない。
自らが選び取った、俺が今ここにこうしているその理由、生きる意志だ。
「………くっ」
浮かび上がる伍長の顔が先程目にしたものへと変化してゆく。
両の眼を抉り取られ、頭蓋を大きく割られたそれへと。
奴等を
敵
(
かたき
)
などと呼ぶつもりはない。
ここは戦場、我々は軍人だ。
誇りある軍人は復讐などしない。
僚友の名誉を汚すつもりなど毛頭ない。
ただ任務を全うするのみだ。
勇気ある僚友が成し遂げられなかった任務を。
我々に最後の戦場を与えてくれた大尉から下された任務を。
遊撃隊員として最後になるであろう任務を。
全うしてみせる…… 必ず、必ず……
シートに両肘を着いてゆっくり上体を起こす。
腹の傷がぐじゅぐじゅと音を立てるが、今更そんなことに構ってはいられない。
奴等が戻ってくる前に何とか状況把握を……
「……なんだ?誰だ、あの男?」
窓から外を確認してみれば、あのガキ共と男が向かい合って立っている。
さっき俺が外に引き摺り出された時は居なかったはずだが……
事情は分からんが、これは俺にとっては悪い事態ではないな。
あの男が何者かは知らんが、ガキ共は全く此方に注意を払っていない。
これなら……
車の床に足を下ろし、助手席の背凭れを掴みながら更に身体を起こす。
二人はさっきから男に気を向けっ放しだ。
本当に何者か知らんが、感謝を捧げたい。
俺の生涯最後の任務にこんな幸運が訪れるとはな
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