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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百四十九話 権利と義務
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言い募るブラッケの肘を突いて口を封じると司令長官がクスリと笑った。

「三十年後には帝国臣民全てに参政権が与えられる。となると当然ですが統一後の同盟市民にも参政権は与えられる、そうですね」
司令長官が確認するかのように問いかけてきた。ブラッケが一瞬私に視線を向けてから答えた。

「そうです、三十年後には宇宙は統一されます。その時には彼らにも参政権を与えます。彼らは同盟で議会政治による統治を実施してきました。その彼らに参政権を与えなければ帝国に対して不満を持つでしょう。百億を超える人間に不満を持たせるのは危険です、新帝国の統治は安定しません。ですから……」

「三十年後には帝国臣民全てに参政権を与える、そういうことですね」
「そうです」
話しを遮られたせいだろう、少し不満げにブラッケが答えた。司令長官がそんなブラッケを可笑しそうに見ている。わざとだな、意外と性格が悪い。

「権利には義務が伴います。参政権を与える事によって国政への参加を権利として与えた……。ではこの場合の義務とは何でしょう」
司令長官がブラッケと私を交互に見た。義務か……、納税? 或いは兵役だろうか? しかし話の流れから言えば……。
「……暴政の阻止でしょうか」

私の言葉に司令長官が微かに笑みを浮かべた。苦笑か?
「まあ、それも有るでしょう。……私が考える義務とは帝国臣民として帝国の安定と繁栄に尽力する事、そんなところですね」
なるほど、一般的な概念としての義務か……。先程の笑みは苦笑だな……、思わずこちらも苦笑が漏れた。ブラッケも苦笑している。

「極めて当たり前のことではありますが、帝国が与えた権利を行使し義務を果たすには帝国人としての自覚とそれに対する誇りが必要です。新領土となった旧同盟領の人間達にそれがあると思いますか? 併合後直ぐに同盟市民から帝国臣民に意識が変わると……」

「……三十年の間、帝国を見ているのです。帝国が変化した事は理解できると思いますが……」
ブラッケが渋い表情で歯切れ悪く答えたが司令長官がそれを否定した。
「帝国を理解するのと帝国人になるのは別問題ですよ、ブラッケ民生尚書」

司令長官は顔を顰めている。ブラッケの言葉が気に入らなかったらしい、おそらく甘いと見ているのだろう。確かに私もブラッケも司令長官が指摘した点については考えていなかった。甘いと見られても仕方ない、リヒテンラーデ侯も同じ事を考えたのだろうか。

「帝国臣民としての義務を果たす意思のない人間が選挙に立候補する。そして同じように帝国臣民としての義務を果たす意思のない人間が代表者を選ぶ……。碌でもない結果になりますよ。政府を、陛下を常に敵視した行動、極論すれば反帝国活動をする人間が議員として帝国の統治に関わる事になる。人口比率から考えるなら
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