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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百四十九話 権利と義務
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にブラッケの表情が渋いものになった。おそらく私も同様だろう。
「ならぬと……」
「ならぬ、ですか……。他には」
「いえ、何も」
司令長官が苦笑を漏らした。そして視線を資料に向ける。

司令長官が資料を手にしながら呟くように“ならぬ、か……。もう少し言いようが有るだろうに”と口に出した。そしてまた苦笑を浮かべる。ブラッケは面白くなさそうだ、此処は私が話した方が良いだろう。

「ヴァレンシュタイン司令長官、リヒテンラーデ侯は貴族です。こう言ってはなんですが旧勢力の方だと言って良いでしょう。内政の改革の必要性は認めても国体の改革には必ずしも積極的ではないように思えます」
「……」
司令長官は苦笑を浮かべたままだ。

「閣下は如何思われますか」
「さて……」
「……先程も同じお答えでした。そろそろ本心をお聞かせ願いたいのですが」
ますます司令長官の苦笑が大きくなった。

「そうですね……。リヒテンラーデ侯がどのような考えで否定したのかは分かりません。ただ、単純な感情論で反対したわけではないと思いますよ。それほど狭量な人ではない」
「そうでしょうか」
ブラッケが思いっきり疑い深そうな声を出した。司令長官がまた苦笑を洩らす。

「二人とも侯に対して不満を持っているようですが私もこの案には賛成できませんね。少々、いやかなり無理があると思います」
「……」

ブラッケに視線を向けると彼は渋い表情をしている。私も自分が渋い表情をしているのが分かる。ヴァレンシュタイン司令長官は議会導入には無理があると考えている。思いもかけなかった反応だ。司令長官は平民達の権利の拡大の必要性を認めていたはずだ。それなのに議会政治の導入には反対している……。

司令長官が手元の資料に目を落とした。彼の顔にもう苦笑は無い。
「狙いはよく分かります。しかし……、足が地についていないというか……、少し焦っているように見えますね」

焦っている? ブラッケと顔を見合わせた。彼も訝しげな表情をしている。ブラッケが口を開いた。
「焦っている、ですか……」
「ええ、リヒテンラーデ侯も私と同じ事を考えたのかもしれない。だとすれば反対せざるを得ないでしょうね。あの人は帝国の危機を見過ごす様な人ではありませんから……」

帝国の危機を見過ごすような人ではない……、その言葉に大袈裟なと反発したかったが言葉にする事は出来なかった。リヒテンラーデ侯が帝国の危機を見過ごす様な人でないなら司令長官もそれは同様だ。私達の思い描く政治体制には致命的ともいえる欠陥が存在することになる。

「権利というのは与えるのは容易ですが剥奪するのは難しい、それだけに権利を与えるのには慎重にならなければならない。その事は分かりますね」
「それは分かります。しかしこの場合は……
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