暁 〜小説投稿サイト〜
その男ゼロ ~my hometown is Roanapur~
#37 "What are you thinking, when look up at the moon"
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夜空は、月や星が大きくハッキリ見えるせいなのか、ずっと近く感じる。
何だかこんな事ばかりしてるよな、俺。
いつだって何かを見上げてる。昔は下ばかり向いて歩いてた気もするけど。

壁際に置かれたベッドから見ているのは天井ではなくロアナプラの夜空。
今夜は何だかそんな気分なんだ。

意味もなく今日一日を振り返る。
今日は結局ダッチとしか会わなかったな。
最近は事務所に行く度に緊張していたものだから、久し振りにゆったりとした気持ちで話が出来るかと思っていたんだけど……

ホテル・モスクワに対する襲撃事件は全く収拾の見込みが着いてないらしい。

うちみたいな零細企業にゃあいい迷惑だぜ、喜んでんのは武器卸してるヨランダんとこか 、騒動を期待して外からわざわざ乗り込んで来やがるトリガーハッピーの馬鹿野郎どもくらいだ、全く。

昼間ダッチが珍しくそう愚痴っていた。

ただその口振りから察するに、うちのボスが本当に懸念しているのは、我が勤め先たるラグーン商会の経営より寧ろバラライカさんの暴発なのだろうが。

暴発という言い方も失礼かもしれないが、ダッチのバラライカさんを語る様からはあながち間違いでもないように思えてしまう。
どこまで真実なのかは知らないが、元ソ連軍人だというバラライカさんとその部下達は他のマフィアとは"何か"が違うらしい。

勢力拡大や利益追求を目指すのが"真っ当な"マフィアだとしたら、アイツらは真っ当どころかマフィアですねえ。
あの女が見てんのはいつだって戦場だけだ。とはダッチの弁。

俺なんかからすると、バラライカさんはとてもクールでマフィアのボスなんかやってるのが信じられないような優しい女性(ひと)、そんな印象なのだけれど。

バラライカさんについて語るダッチの顔はとことん真摯なもので、冗談好きで分厚い笑顔の似合う彼には珍しい類のものだった。
タフで鳴らす俺の頼りになるボスをここまで怯えさせるとは……

俺は今まで何を見てきて、これから一体何を見るんだろうな、この街で。

風が前髪をそよがせる。
街の匂いが鼻腔の奥まで運ばれてくる。
この匂いを愛しいものと思えるようになれば俺も一員になれるのだろうか、この街の。

「……あの子達、どうしてるかな」

昨日街で出逢った銀髪の双子を思い返す。
美しい歌声を聴かせてくれたあの子と、優しく抱き締めてくれたあの子の事を。

名前も聞かずに別れたあの子達。
この街に来て初めて俺が涙を見せた相手。
出逢えた事が何かの奇跡としか思えない。まさかこんな街であんな子達に……

「………」

鼻の奥にツーンとした痛みを覚える。
目蓋の内側に熱を感じる。
一旦(せき)が切れるとどうも駄目らしい。
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