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その男ゼロ ~my hometown is Roanapur~
#31 "public enemy number one"
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は不穏な空気が漂っているのだが、暴発までには至っていない。
以前は街のそちらこちらで死体が生まれ(……おかしな表現だが、まあいいか)私の商売も大いに繁盛し、忙しい思いをしたものだ。
死体が新鮮であれば、"中のもの"を売り飛ばす事も出来るし、第一綺麗だし楽しい。
だから時に現場に赴き、時に持ち込まれた"彼ら"と至福の時間を過ごしていたのだが……

最近はとばっちりを恐れているのか、死体が生まれるような事がなく、全く私にお声が掛からない。
ホテル・モスクワは元々私の顧客ではないので、あそこにいくら被害が出ようとも私が呼ばれる事はない。

面白くもない話だ。
こんな騒動とっとと終わってくれないだろうか。
この街に住み着いてから、こんなに不愉快な思いをするのは初めてだ。
私にとっての理想郷だと思っていたのですけどね、ここは。

いつでも新鮮な死体に触れられるし、不粋な警察などに邪魔される事もないし、顧客の皆さまはいい方ばかりだし。
申し分のない環境だと日々を楽しく過ごしていたんだけど……

「………!」

あ、マズイ……目眩がする……

身体が揺れ出し、立っていられなくなる。
ああ、やっぱり太陽は私の敵だ。
いや、奴は生きとし生ける者全ての敵だ。私がそう決めた。

ふらつく頭を支えながら、何とか奴から逃れられる場所を探す。
歪み出す視界の端に日陰を見付け、そこに滑り込むように到達する。

奴の影響下から逃れられた安堵感よりも、再び奴に挑まなくてはならない己の未来に対する絶望感の方が上回る。
私は両膝を抱え込み、その間に顔を埋めた。

何も見たくなかった。
何も考えたくなかった。
自慢じゃないが(本当に自慢にならないが)私には鬱の気がある。
自分で自覚出来ていても鬱病というのかどうかは知らないが、時々何もしたくなくなる。 ただただ膝を抱え込んで動きたくなくなる。
そういう時がある。

こうなると私は動かない。
意地でも動かない。
微塵も動くつもりはない。
ただただ時が過ぎるのを待つ。
せめて奴が姿を消すまでは。奴の光が闇に遮られ、私に届かなくなるその時まで。
動くつもりはなかった。なかった、んだけど……

私と奴の間を何かが遮った。日陰と言っても僅かながらに奴の光は感じてしまう。
その光を遮る何かが私の前に顕れた。

「き……だ…………か…」

何処かから音が聴こえる。良くは聞き取れない。耳は良い方なのだが……

静かになってしまったが、何かが去ったわけではないようだ。相変わらず奴の光は遮られている。その何かのお陰で。

「お……ロッ……みは」

その日の私はやはり何処か調子が狂っていたのだろう。
何の気紛れか、膝の間
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