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その男ゼロ ~my hometown is Roanapur~
chapter 03 : variety
#30 "please tell me what your name is"
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男にこそ。
死ぬ事も赦されない業深きこの身が、ほんの僅かでも歩みを止める事が許されるというならば、それはこの街しかないのではないか。

真実は分からない。答えを問うても誰も答えてはくれない。
だから俺は歩き続ける。先ずはこの街の闇を払うために。

「………む?」

道端に蹲る少女の姿を俺の網膜が捉えたのは、歩き出して三十分も経った時だったろうか。
その少女は道路の端、ビルとビルの隙間の陰で両膝を抱え込んで座っていた。
膝の間に顔を埋め、座り込むその少女を気にするものは誰もいなかった。
まるで風景の一部であるかのように。

「………」

俺はその少女に近付いた。神ならぬ我が身に何が出来るとも思うが、このまま素通りは出来ない。
……女の涙は見たくない。それが少女だというなら尚更だ。

「君、どうかしたのか?」

地面に膝をついて訊ねる。彼女は顔を膝に埋めたままだ。

彼女の癖のある黒髪を見ながら、何と声を掛けたものか思案する。
この世界に言葉は数あれど、少女の心に届くそれを見つけ出すのは迷宮の奥へと宝を求め、踏み込むようなものだ。
容易に辿り着けるものではない。
無論、諦めはしないが。

「俺はロットン、君は?」

人に名を訊ねる時は自分から名乗る。これが基本だ。
そう言えば昨夜出会ったあの男とは、結局名乗り合わなかったな……

「………」

刹那の邂逅に思いを馳せていた俺は、掌に暖かな温もりを感じ、意識を現実世界に引き戻す。

目の前の少女は膝から顔を上げ、俺の片手にそっと触れていた。その実在を確かめるかのように、そっと。

彼女の顔を正面から見た時、俺は気付いた。 気付かされてしまった。
彼女の喉元には引きつるような傷痕がある事に。横一文字に伸びきり歪な赤みを持つそれは少女の清らかな白い肌の上では否応もなく目立ってしまっていた。

恐らく、いや間違いなく彼女は……

少女の辿ってきた苛酷な運命に耐えきれず、思わず目を伏せる。
そんな惰弱な俺の掌を少女が掴む。
目を上げれば開かれた掌の上を少女の白い指が這う。

ソー……ヤー………

「ソーヤー、それが君の名か?」

俺が訊ねると彼女は小さく、だがはっきりと頷いた。

この出会いがどのような運命(さだめ)を俺にもたらすのか、それは分からない。
だが俺は闘う。
俺はロットン。 ロットン・ザ・ウィザード。
刻に縛られながらも運命と闘い続ける魔術師。
それが俺だ。










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