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その男ゼロ ~my hometown is Roanapur~
chapter 03 : variety
#30 "please tell me what your name is"
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【11月2日 AM 10:48】
Side シェンホア
『熱河電影公司』
(
イツホウデインインゴンシ
)
ここロアナプラに本社ビルを置くケーブルテレビの配給会社です。
バンコクにも出張所があるそうですが、そちらへは行った事はありません。
今後も行く事は先ずないでしょう。
今、私はその本社ビル最上階にある社長室に直立不動の姿勢で立っています。
全身に僅かな緊張を纏わせながら。
別に女優の面接を受けに来た訳でも、部屋の豪華さに萎縮している訳でもありません。
一級の調度品で構成されていながら、決して品を落とさず、調和を乱さないそのセンスは見事なものではありましたが。
「シェンホア、お前一人か?
相棒を連れてくるんじゃなかったのか」
掛けられた声は至って平静なものであったが私の方はそうはいきません。
この方を目の前にして、ただでさえ声が上ずらないようにしなくてはならないのに、風来坊な相棒を庇ってやらなくてはいけないのですから。
「はい。昨夜共にロアナプラ入りはしたのですが、その……あまり礼を知らぬ男でして。張大兄に失礼があってはと思い、本日は帯同させませんでした」
そう言って深く頭を下げます。
この部屋の主にして、
香港三合会
(
トライアド
)
の大幹部。今回の依頼主であり、また何度も仕事を請け負った相手。
現役時代には二挺のベレッタを操り、数知れぬ修羅場をかいくぐってきた猛者。その勇名は今なお、香港裏社会に鳴り響いている。
私はゆっくりと顔を上げ改めて正対します。革張りのソファにゆったり座り、此方を見つめてくる張維新その人と。
元々今回は張大兄に依頼されてこの街まで来た訳ではありません。
私の相棒(極めて不本意ながら)であるロットンが唐突に(アイツは常にそうだが) ロアナプラに行くと言い出したのです。
どうも最近あの街が騒がしいらしい。
その噂を聞き付けての事です。
私は(無駄と承知してはいたが一応) 思い留まるよう説得しました。
あの街には関わるべきではない、と。
裏の世界ではあの街はそれなりに有名です。
タイ奥地の黄金地帯より運ばれてくる麻薬をさばくための港町として、複数のマフィアが共存している街。
大体この程度が一般的な評価でしょう。
一般的といっても、 表の世界には殆ど情報は流れていないでしょう。
あくまで"此方側の世界"での一般です。
一般的な評価がそうならば、一般的でない評価はどうなのか?
それこそ私がロットンのロアナプラ行きを引き留める大きな理由なのです。
一言で言ってしまえばあの街は魔界です。
迂闊に足を踏み入れていい場所じゃない。
(所謂)普通の人がどう思っているかは分かりませんが、裏の社会というの
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