暁 〜小説投稿サイト〜
その男ゼロ ~my hometown is Roanapur~
#29 "homecoming"
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にしたことは顔を洗う事だった。
ふらっと散歩に出たお陰でハンカチも持って出なかったからな……
さぞ酷い顔を晒していたことだろう。
あの子達も呆れたんじゃないかな?
特に何も言われなかったのは優しさからか?
見た目よりも大人だろうしね、 精神的には俺なんかよりもずっと。

家まで送っていこうかという俺の提案は アッサリと断られた。
曰く、秘密の冒険は無事家に帰ってこそ完結するのだそうだ。誰の力も借りることなく、二人だけで。
全く逞しい子供達だ。
結局その場で手を振って別れる事にしたのだけれど、弾むように歩く二人は本当に幸せそうだった。
笑顔を浮かべ手を繋いだまま去り行く彼等を見送りながら、俺の心まで暖かくなっていくようだった。

洗面所に入り叩きつけるように水で洗った後、鏡で確認した顔は多少はマシなものに見えた。
あくまで多少はだけど。
水が滴り落ちるその顔は何と言えばいいのか、憑き物が落ちたようというのは言い過ぎだろうか。
やたら締まりのない情けない男の顔を見るっていうのはそんなに楽しい事じゃない。

あとその時、頬から顎にかけて流れる水に若干の赤い色が混じっているのに気付いた。
指で触ってみても特に傷があるわけでもなし。当然何処かで血を流したような覚えもない。
気にはなったが、まあ虫にでも刺されたのだろう。そう思う事にした。
別にあの二人とは関係ないことだろうし。

タオルを手に取り顔を拭き終わると、もう鏡を見ることもせずにそのまま洗面所を出た。

寝室に入るや否や、シャツとズボンを脱ぎ捨て床に撒き散らす。
ランニングとパンツ姿になり、そのままベッドに倒れ込んだ。
軽く軋む音が聞こえる。
貰った中古品のやつだから、あまり乱暴に扱わない方がいいかな?
まあ、今夜くらいはいいか。

頭の奥に鈍い疼痛を感じるが不快ではない。
眠りに入る予兆だろう。
全身を倦怠感が包む。
今夜は漸く眠れそうだ。
夢を見ることもなく、ぐっすりと。

今夜偶然出会えた子供達の顔が脳裡に浮かぶ。
あの二人には感謝しなきゃいけない。美しい髪と優しい笑顔を持ったあのふた……

そこまで考えてふと気付く。
結局あの双子の名前すら聞いてなかった事に。
彼等の事情にまで踏み込むつもりはないし、またそんな事出来るはずもないけれど。
名前くらいは聞いておきたかったな。

また会えるだろうか?
別れ際には確かにこう伝えた。 「ありがとう、またいつか」と。
ロアナプラはそんなに広い街じゃない。
ましてあんな可愛らしい二人だ。
探す事もそんなに難しい事ではないだろう。
会おうと思えば、また会える。そう信じるとしよう。

そう言えば俺だって名乗っていなかったな
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