暁 〜小説投稿サイト〜
その男ゼロ ~my hometown is Roanapur~
#27 "She sings a song silently in the moonlight"
[2/2]

[8]前話 [9] 最初 [2]次話
?寂しい人なの?」

真正面から訊ねられて少し落ち込んだ。やっぱり子供って残酷だな。

「俺には君達のような兄姉はいないけど仲間がいるんだ、この街にね。
変わった連中ばかりだけど良い奴らだよ。
こんな俺でも受け入れてくれたんだ。
嬉しかったよ、本当に。
嬉しかったんだ……本当に……
何もかもに見捨てられた気がして、何も持たない自分に気付かされて、本当にどん底の状態で、そんな時に救われたんだ」

少し微笑んで横の二人を見遣る。二人とも黙って俺を見上げてる。柔らかい微笑を浮かべたまま。

「みんなには感謝してるんだ。特に凄くお世話になった奴がいてさ。ソイツって普段無口で何考えて……」

言葉が途切れる。
"アイツ"の顔を思い浮かべた途端、胸が苦しくなる。
肺から脳へと酸素が送られるのを、誰かの手で遮られているかのようだ。
頭がガンガンと響く。
上手く息が吐き出せない。
右手で胸を押さえる。
目の前に星がちらつく。

こんな事って…あるのか……
ただ思い浮かべただけで…俺、そんなに、アイツの事……

「大丈夫だよ、おにいさん」

「………………え?」

痛みが引いていく。
呼吸の仕方を思い出す。
ただ目の前は真っ暗なままだ。
何かに塞がれてる?
何に?

……髪を撫でられてる、小さな手で。目を塞ぐ何かの正体を悟る前に後頭部に暖かな感触を覚える。

「辛い事があったんだね、分かるよ」

「私達もたくさんたくさん辛い目に会ってきたの。
だから分かるわ。おにいさんがとってもいい人だって事が。
いい人は好きなの、私達」

目蓋の裏が熱くなる。
胸に置いた手から力が抜け、身体の脇に垂れ下がる。
鼻の奥に痛みが走る。
喉をしゃくり上げて震わせてしまう。

何も考えたくない。
情けない自分も、理想の自分も。
過去の自分も、現在の自分も。
今はただ……

「おにいさん……」

俺の髪の表面を柔らかい手が往復する。
顔を一層強く押し付ける。
頬を流れる涙を隠したかったのか、別の理由からそうしてしまったのかは分からなかったけれど。

やがて耳には美しい歌声が届く。
本当にここはロアナプラなのか?
僕は気付かない内に死んで天国にでも来てるんじゃないのか?
それでもいい。それならそれで構わない。

こんなに安らいだ気持ちになれるなら。
こんなに綺麗な歌声が聞けるのなら。

何でもいい。俺を救ってくれるなら誰でもいい。

今はただこうしていたい。ただこうして……










[8]前話 [9] 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ