第一話 うつけ生まれるその十二
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「それよりもだ」
「それよりもといいますと」
「一体何を」
「帰蝶を呼べ」
道三は今度はこう命じたのである。
「よいな、帰蝶をだ」
「帰蝶様をですか」
「呼ばれるというのですか」
「そうだ、呼ぶのだ」
彼はまた言った。
「わかったな」
「はい、それでは」
「すぐに」
こうしてであった。すぐに白地に濃い青と紫の蝶を飾った服を着た黒髪の少女が連れて来られた。細面に透き通るような白い肌、黒く美しい髪は膝のところまであり切れ長の目からは強く奇麗な光が放たれている。眉は所謂柳眉であり整っている。小さな唇は紅の色をしている。その彼女が連れて来られたのだ。
そのうえで道三に対して一礼する。そうして言うのだった。
「父上、帰蝶只今参りました」
「うむ」
道三は娘に対して頷いた。
「よくぞ来た」
「そして何の御用でしょうか」
「そなたにこれをやろう」
こう言ってだ。娘にあるものを出してきた。
見ればそれは刀だった。それを娘に差し出して言うのである。
「これを持っておれ」
「身を守る為でしょうか」
「いや、違う」
そうではないというのだ。
「この刀で夫を守れ。そして」
「そして?」
「守るに値しないならば斬れ」
こう告げたのだ。
「よいな、斬れ」
「我が夫となる者をですか」
「そうだ。その時は斬れ」
道三はまた娘に告げた。
「わかったな」
「わかりました。しかし」
「しかし?何だ?」
「この刀、我が夫を守る為だけではなく」
こう前置きしてからの言葉だった。
「父上を斬るやも知れません」
「わしをか」
「はい、父上をです」
こう言うのである。
「我が夫が父上と戦うのならばです」
「面白いことを言う」
道三はそれを聞いてだ。何と不敵に笑ってみせたのである。
「それはまた」
「面白いというのですか」
「流石はわしの娘だ」
その顔で娘を見ながらの言葉だった。
「では。その時はだ」
「はい、その時は」
「やってみせるがいい」
叱らなかった。逆に認めていた。
「それではな」
「はい、それではその時は」
「どうやらうつけは美濃にもおったわ」
道三は楽しそうに言う。
「うつけにうつけか。面白い組み合わせじゃな」
「そういえば尾張には大層なうつけ殿がいるとか」
「そなたと同じよ。天下屈指のうつけじゃ」
「屈指のですか」
「それだけに合うやもな。それにじゃ」
道三は今度はこんなことも言ってみせた。
「わしもうつけよ。うつけにはうつけが集まるのじゃろうな」
「では私はやがて」
「嫁ぎ先は決めておる」
また娘を見ての言葉だった。
「もうじゃ」
「では尾張に」
「ほう、わかるか」
「御言葉ですが」
わかるというのだった
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