第一話 うつけ生まれるその十一
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「天下をわしのものにしこの世に平安楽土を築くぞ」
「平安楽土を」
「民が安心して明るく過ごせる国を築く。よいな」
「それでしたら」
「そなたは民が好きじゃな」
「むしろ戦より民の笑顔の方が好きです」
この言葉にも偽りがなかった。それを隠さなかった。
「ですから」
「わしもじゃ」
それは彼もだというのだ。吉法師もだ。
「わしは戦う。しかしそれ以上に民に対して政を行うぞ」
「そちらの方がお好きなのですね」
「戦の後に政がある。そういうことじゃ」
こう話してそのうえで先に進む。彼はまだ幼いながらもそれでも遥かな先を見据えていたのである。
そしてその頃。三河では。
一人の子供がだ。何処かへと連れて行かれていた。
「このまま駿河へ行くのだな」
「いえ、尾張です」
かごの外からだ。こう告げられた。
「そこにです」
「何っ、話が違うではないか」
「はい、突如として変わりました」
外から聞こえる声はあくまでこう話す。
「ですから」
「馬鹿な、それでは今川はどうなる」
子供にもわかることだった。咎める声で外に問う。
「義元殿が怒られるぞ」
「そのことについてはお気遣いなく」
しかし外の声は落ち着き払ってこう述べてきた。
「既に手は打ってあります」
「その言葉、信じよというのか」
「是非」
こう答えてきた。
「御願いします」
「ではそうしよう。それではじゃ」
「はい、尾張の織田信秀殿のところへ」
「参るとしよう」
こう言ってであった。子供は尾張に向かった。幼い顔に小さな身体、そしてあどけない顔をしている。松平竹千代、今運命の中に身を置くことになった。
美濃は尾張の北にある。その中心である稲葉山城においてだ。その頭を剃髪した鋭い目を持ち険阻と言っていい顔をした男が南を見て呟いていた。
「尾張におおうつけがおるらしいの」
「はい、織田弾正忠の嫡男です」
「名を吉法師といいます」
こう家臣達に告げられる。
「何でも出鱈目な格好をしていてしかもその行いも酷いものだとか」
「ふむ。そこまでか」
「はい、酷いものだそうです」
また話す彼等だった。
「まことのおおうつけだとか」
「家臣達も手がつけられないとか」
「ふむ、そうか」
そこまで聞いてだ。道三は言った。
「さすればそのうつけに一度会ってみたいものだな」
「会われるというのですか?」
「またどうして」
「わしもまた若い頃は色々とやったものじゃ」
一介の油売りから国を奪い今に至る。戦国の梟雄として有名な男だ。
「さすればだ」
「会ってそのうえで」
「始末されると」
「それも考えている」
そうだというのだった。
「それでどうだ」
「わかりました、それでは」
「一度会われるのも
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