第一話 うつけ生まれるその十
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「わかったな」
「わかりました。とはいっても」
「とはいっても?」
「難しいものでございますな」
勘十郎は少し俯いて考える顔になって述べた。
「これはまた実に」
「うむ、難しい」
吉法師は前を向いていた。そしてそのうえで弟に告げた。
「このことは確かに難しいことだ」
「はい」
「こうして褒美をやっても些細な落ち度で人は離れるものだ」
「些細な、ですか」
「褒美で動かん者もおる」
吉法師はこのこともはなした。
「そうした者もおるのだ」
「褒美をやってもですか」
「それは人それぞれじゃ。それならばじゃ」
「それならば?」
「その者の欲しいものをやり見たいものを見せてやるのじゃ」
「見たいものをですか」
「それを見抜くことも大事なのじゃ」
吉法師はまた弟に話した。
「そのこともじゃ」
「人をですか」
「勘十郎、人を疑うことも覚えよ」
先程の話になっていた。それをあえてまたしてみせたのだ。
「怪しい者は断じて近付けるな」
「断じて、ですか」
「そなたは織田の家が欲しいか」
このこともまた問うた。
「織田の家は。どうじゃ」
「織田の家をですか」
「欲しいのなら手に入れろ。わしを倒してな」
「欲しいとは思いませぬ」
素直にありのまま答えた言葉だった。
「それは別に」
「欲しゅうないか」
「私は主に向いていないでしょう」
これは自分でもおおよそわかっていた。だからこその言葉だった。
「ですから」
「織田の家は欲しくないか」
「私は主よりもその傍にいるべきなのでしょう」
「そうじゃな。御主はその方がしっくりと来る」
「はい、ですから」
「それでも人を見る目は持っておけ」
再度弟に対して告げた。
「わしの傍らにおるのなら余計にだ」
「左様ですか」
「わかれば今はしかと磨くのじゃ」
「人を見る目をですね」
「そうじゃ、磨け」
また弟に対して話す。彼にあくまでそうしてもらう為に。
「それを見極めるのじゃ。よいな」
「わかりました、ではよく」
「人の欲するものを与え見せる」
このことも再び話した。
「よいな、よくじゃ」
「銭ばかりとは限らないのですね」
「銭の他にも色々なものがある。見極めるのじゃ」
「ではその様に」
「天下を目指すぞ」
吉法師は今は上を見ていた。そうしてそのうえで話した。
「尾張だけではないぞ」
「天下をですか」
「そなたも共に来るのだ、よいな」
「天下と言われましても」
「ははは、大きいか?」
弟に顔を向けてきた。そうして話したのだ。
「それは」
「はい、大き過ぎて私にはどうも」
「しかしまことじゃ。尾張だけではないぞ」
彼はまた言ってみせた。
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