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万華鏡
第三話 部活その十

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「それでだよ」
「ううん、何か」
「何かって?」
「阪神の優勝って」
 琴乃は首を捻りながら言う。
「中々なのね」
「引っ掛かる言い方だよな」
「私も阪神嫌いじゃないけれど」
 奏でている音楽は自然と六甲おろしになる。その中での演奏だった。
「星野さんいないと」
「それ言うなよ」
「そうよね。それはね」
「仕方ないからな」
 弟もわかっていることだった。それは。
「けれどだよ」
「せめてもっていうのね」
「ああ、そうだよ」
「ゲームだけでも」
「勝ちたいだろ」
「うん、よくわかるわ」
「ゲームの中だと十連覇だよ」
 彼は大きく出た。
「巨人の九連覇以上だよ」
「あんた相変わらず巨人嫌いね。私もだけれど」
 琴乃の一家は関西の一家らしく誰もがアンチ巨人だ。そしてそれはバンドのメンバー全員がそうだったりする。
 その琴乃がだ。こう弟に言った。
「あんたは筋金入りね」
「巨人好きな阪神ファンがいるのかよ」
「いないけれどね」
 そんな人間は存在する筈がない。阪神を愛する者にとって巨人は憎むべき宿敵、いや怨敵でしかないからだ。
「絶対に」
「そうだよ。ああ、姉ちゃんもな」
「今度は何よ」
「バンドで六甲おろし歌うよな」
 言わずと知れた阪神の応援歌だ。
「それで演奏するよな」
「六甲おろしって」
「いいよな、あの歌も」
「バンドで普通歌わないでしょ、あの歌は」
「えっ、そうなのかよ」
「ポップスやロックは歌うにしてもね」
「けれどフミヤさんあれだろ」
 弟はチェッカーズのメインヴォーカルだったこの歌手の名前を出す。
「ホークスの応援歌作ってるじゃねえかよ」
「あの人ね」
「だろ?あの人九州出身でな」
 福岡の久留米出身だ。チェッカーズのメンバーは全員九州出身、しかも福岡の久留米出身なのである。
「その縁でホークスファンだからな」
「そういえばそうだったわね」
「だから姉ちゃん達もどうだよ」
「バンドで六甲おろしね」
「巨人の歌じゃなかったら別にいいだろ」
「巨人の歌なんて歌ったらその場で殺されるでしょうね」
 それは何故か。関西だからだ。
「文句なしに」
「それでさ、甲子園とか通天閣の前で路上ライブとかしてな」
「結構絵になるわね」
 琴乃は弟に言われたことを想像してみた。すると実際にだった。
「確かに」
「だろ?あの歌は名曲だしな」
「名曲は名曲だけれどね」
「じゃあ歌ってみたらどうだよ」
「考えてみるわ。皆と相談してね」
「前向きにな。じゃあ今からまたゲームするからな」 
 こう言ってだ。彼は自分の部屋に戻って。
 それから阪神にその愛を捧げた。琴乃は夕食までその愛をギターと歌に捧げた。そしてその次の日にだった。
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