第三話 部活その七
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「物凄く長いのよね」
「二時間どころじゃないの」
「どれ位なの?」
「倍はあるわ」
ワーグナーの作品は後期の作品になるにつれて長くなる。
「四時間とかね」
「四時間って」
「五時間位あるのもあるから」
「ううん、それはまた凄いわね」
「お父さんは時々最初から最後まで聴いてるの」
「時間のある時に?」
「そう、時々ね」
l聴いているというのだ。
「そうしてるわ」
「私は無理ね」
琴乃は信じられないといった顔で答えた。
「というかライブでもそこまで長くしないわね」
「そうね。ちょっとね」
「有り得ないまでに長いけれど」
「ワーグナーは特別なの。それでそのワーグナーのソプラノはね」
話が戻った。その独特のソプラノの話にだ。
「ソプラノとしては低い声域なのに高い、叫ぶ様な高い声も要求されて」
「矛盾してない?」
「それでもそれでないとね」
「駄目なのね」
「そう。ワーグナーの場合はテノールもそうよ」
「テノールって男の人よね」
男声の高音だ。クラシックの世界、とりわけ歌劇の世界においてはソプラノと並ぶ歌の花形である。特に淑女からの人気が高い。
「そうよね」
「ええ、そのテノールにも声域があって」
「ソプラノみたいになの」
「ワーグナーのテノールも特別なのよ」
どう特別なのかもだ。景子は話す。
「ヘルデンテノールっていって」
「ヘンデル?」
「それは音楽家」
ドイツの音楽家だ。イタリアで修行してそのうえでイギリスで活躍した中々国際色豊かな経歴の音楽家である。
「だから。ヘルデンってのはね」
「ヘルデンは?」
「英雄って意味で」
「ワーグナーのテノールって英雄なの」
「そう、ヒーローが主人公なの」
景子は英語を入れてわかりやすく話した。
「それでその英雄の声域がね」
「やっぱり低いのね。テノールとしては」
「そう。それでいて高音が要求されるから」
ソプラノと同じくそうなるというのだ。ワーグナーは。
「難しいの。というかそういう歌手は滅多にいなくて」
「そんなに少ないの?」
「だって。テノールとしては声域が低いのに高音が要求されるのよ」
まずはこの問題があった。普通はこの二つは両立しないがワーグナーはその異才によってその二つを共に要求するテノール、ソプラノをはじめたのだ。
「しかもワーグナーの作品は長くて主人公だから」
「いつも歌うのね」
「ワーグナーの作品って主人公の出番がかなり多いの」
「そんなになの」
「舞台には殆ど出てるわね」
即ち休憩時間が少ないということだ。
「体力も必要よ」
「ううん、そうなると」
「歌える人が少ないことがわかるわよね」
「うん、そこまで聞いたら私もね」
琴乃はこう景子に答えた。
「それだけ凄
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