第三話 部活その六
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その中でだ。琴乃は言ったのである。
「高いのよね」
「そうよ。高いのよ」
こう話す景子だった。
「ソプラノでも色々な域があるから」
「あれっ、ソプラノでも?」
「声に高低があるのよ」
「じゃあソプラノっていっても一言では言えないのね」
「広いわよ」
景子はこう琴乃に返した。
「高いソプラノはレッジェーロ。コロトゥーラとも言うわ」
「それが一番高いソプラノなのね」
「レッジェーロはイタリア語でコロトゥーラはドイツ語よ」
「イタリアとドイツで違うのね」
「そう。また違うから」
この違いについても話される。
「そこはね」
「それは呼び方が違ってて声域自体はよね」
「変わらないわ」
そうだというのだ。
「それはね」
「そうよね。とにかくなのね」
「そう。ソプラノで一番高いのはそれで」
「他にも一杯あるのね」
「高い順にリリコ=レッジェーロ、リリコ、リリコ=スピント、ドラマティコ」
次々に挙げられていく。
「それでドラマティコが一番低いソプラノなの、いえ」
「いえ?」
「もう一つ低いのがあるけれどそれは特別ね」
「どんなソプラノなの?」
「ワーグナーって知ってる?」
「ドイツの音楽家?」
琴乃が知っているワーグナーへの知識はこれ位だった。
「何か凄く長いオペラ作った人よね」
「そうよ。そのワーグナーのソプラノはね」
「特別低いの」
「ドイツ語読みで」
こう前置きして話されることは。
「ホッホー=ドラマティッシャー=ソプラノっていうの」
「ええと。ホッホー?」
「ワーグナーソプラノともいうわ」
その音楽家の名前がそんままなっていた。
「そう呼ばれているのよ」
「そのソプラノが特別なの」
「そう、全然違うの」
「そんなに違うのね」
「そう。実はお父さんワーグナーが好きでね」
彼女の父の意外な趣味だった。
「それでなのよ」
「知ってるの」
「教えてもらったの」
その父にだというのだ。
「といっても教えてもらっただけで」
「実際に聴いたことは?」
「一応あるけれど」
だがそれでもだというのだ。
「わからなかったわ」
「そうなの」
「というか聴いてるうちに疲れて」
「疲れる?」
「だから。ワーグナーのオペラって長いのよ」
代表作であるニーベルングの指輪に至っては四日かけて上演され全十五時間の演奏時間だ。文句なしに最大の歌劇である。
「もう聴いてるだけでね」
「疲れるの」
「そう。中学二年の時に聴いたけれど」
「疲れて?」
「もうノックアウトされたわ」
「そりゃそうよね」
琴乃がそれを聞いて頷く。
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