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その男ゼロ ~my hometown is Roanapur~
#19 "an indelible memory"
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……
特に反論もなし、か。
サングラスの端から覗き見た奴は、変わらぬ涼しげな眼を俺に向けて来ている。
………変わらんな、お前は。
「……張さん、あんた本気なのか?
本気でゼロが殺ったと思ってんのか。
あんただってコイツの事は知ってんだろ。コイツがそんな事するわけねえ。
こそこそ隠れて街の住人を殺してゆく?
大騒動になると承知の上で?
馬鹿な!
コイツはそんな奴じゃねえ。
そんなイカれた"厄種"野郎なんかじゃねえ!
第一、何だってゼロがあんたに喧嘩なんて……」
「復讐、それが動機なんじゃないか」
熱くなるダッチに冷水を浴びせるように、俺はポツリと
一滴
(
ひとしずく
)
の言葉を船内に投げ込む。
空気中に見えない波紋が拡がる。
それはダッチの元まで届くと、その拳の震えを止めてしまう。
つまらん例えではあるが、俺にはそう感じられた。
本当につまらん例えだが。
俺は更に波紋を拡げるために言葉を投げ込んでゆく。
壁際にたたずむ奴のところまで届くように。
「ゼロの事なら俺も分かっている。古い知り合いだからな。
コイツが信頼出来る奴である事も知ってる。
普段は隠しているが、その心の中には熱い感情がある事も。
ハッキリ言ってこんな街には似つかわしくないやつだ。アンタは良い部下を持ってるよ、ダッチ。
………ただ、な」
俺は掛けていたサングラスを外し、テーブルの上に置いた。
そして顔を上げて正面からダッチと向き合う。
視界の端にゼロの姿を認めながら。
俺の視線に堪えかねたかのようにダッチは俯いてしまう。
思い出しているのだろうか、"あの時"の事を。
「コイツがそういう奴だからこそ。コイツの事をよく知っているからこそ、俺は不安なんだよ、ダッチ。
お前も覚えているだろ?コイツにとって俺は仇と呼ぶべき男だ。
"俺はゼロの目の前で彼の家族を撃ち殺したんだぞ"
あの時のゼロの目は今でも忘れられんよ。
あんな目をする奴はな、絶対に忘れない。どれだけ心の奥に怒りをしまいこんだとしても、決して無くしたりはしない」
"その瞬間の記憶。その時自分の心に産まれた何か"を。
俺の視線を避けるかのように、ダッチは一度も顔を上げなかった。
膝の上で組んだままの拳を乗せながら俯いているその様は、何かに耐えているようにも、祈りを捧げているかのようにも見えた。
このタフな男が何かを信じているとは寡聞にして知らないが。
「ダッチ。勘違いしないでくれ。
俺は確信しているわけじゃない。いや、本音で言えばゼロが今度の事態を引き起こした可能性は低いと思ってる。
ただ不安は拭っておきたい。
もしコイツが動いたとしたら、それは覚悟を決めたという事だろう。なら俺も覚悟を決めなきゃいかん。
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