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その男ゼロ ~my hometown is Roanapur~
#16 "to be the man,to beat the man"
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ぶつけただけなのに。それなのに、なんで、なんで?」

俺の言葉を受け彼女は立ち止まってくれはした。が、此方を振り返りはしなかった。
左手を腰に当て右手で頭を掻いてる様子から察するに返答を考えてくれてはいるようだ。 俺は彼女の後姿を見ながら答えを待った。
風が俺達二人の間を吹き抜けていく。すっかり冷えきった身体にはその風がやけに冷たく感じられた。

「あのな、ロック。
あんたが言ったのも少しは当たってるんだ。アタシだっていつもいつも自分が正しいって 自信満々に振る舞ってるわけじゃねえ。やっぱり迷う時だってあるんだよ」

レヴィは漸く語り出した。背中を向けたまま。俺に顔を見せないまま。

「今回も迷ったよ。
あんたに銃を向けるかどうか。撃つか撃たないかじゃあねえ。"向けるか、向けないか"だ。
向ける必要なんてないと思ってた。
第一あの野郎だって言ったんだ。撃つつもりもないくせに銃を向ける奴は最低だって。
それなのになんでこんな事させるのか、本当にアイツの考える事はわかんねえよ」

レヴィの話は俺には意味の分からないものだった。
ただ話の中に出てくる"アイツ"というのがゼロの事を指しているのは分かった。

ゼロ。

また、お前が何かやったのか?

「けどまあ、悪くはなかったんじゃねえかって思うよ。
あんたの本音ってやつも聞けたしな。序でにあんたがどんだけ馬鹿かってのも分かったし、それなりに楽しめたしね。
ロック、忘れんなよ。
銃を向けられるってのがどういう事か。
人間なんて指がちょいと動くだけで、簡単に黙らされちまうんだぜ。
覚えときな。
あんたがこの街に残ると決めたなら、アタシらの仲間でいると決めたなら。
守ってやるさ。例え誰が相手でもな。
けどな、あんたが今回みたいな無茶したらさすがに守りきれねえ。結局テメエのケツはテメエで拭けって事さ」

じゃあ、後でな。
最後にそう言ってレヴィは去っていった。右手を軽く振りながら。俺の方を一度も見る事なく。

「………」

俺は何も言えなかった。彼女の背中が小さくなっていくのをただ突っ立って見ている事しか出来なかった。
当たり前だ。
彼女には俺の言葉なんて届いてない。
届かない言葉なんていくらぶつけても、虚しいだけだ。俺は………

「………ょう」

身体が冷たさとは違う理由で震え出す。両の拳に力がこもる。口の中に苦い味が広がる。 瞼を閉じると視界が真っ赤に染まる。

「………くしょう……ちくしょう…ちくしょう!!」

地面に向かって思い切り言葉を吐き出す。
悔しかった。悔しかった。ひたすらに悔しかった。

「ちくしょう!ゼロォォォォォォ!!」

アイツかよ。結局アイツかよ。
俺が必死になって話したのに。すげえ怖い
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