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八条学園怪異譚
第五話 水産科の幽霊その十

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「若いな」
「ええ、確かに」
「心はあの頃のままじゃ」
 海軍将校だった頃と同じだというのだ。
「海軍将校だったな」
「で、ここにおられるんですか」
 愛実がまた問うた。
「そうですよね」
「その通り。思い出の場所にな」
「お爺さん誰なんですか?」
「わしか?」
「はい。三年前に老衰でお亡くなりになった元海軍将校の人ですよね」
「そして自衛官でもあった。階級は一佐までなった」
「一佐?」
 その階級も聞いて愛実にはわからない。それで首を横に振ってから怪訝な顔になって横にいる聖花に尋ねたのである。
「どんな階級なの?」
「あっ、大佐になるのよ」
「特撮ものの悪役の階級であったわね」
「そういえば時々あるわよね」
「けれど別に悪い仕事じゃないわよね」
「そうじゃないから。軍隊は将軍の下に佐官と尉官があってそれぞれ大中少の三つに分かれてるのよ」
「じゃあ一佐ってかなり偉いのね」
 聖花の話から愛実は一佐についてこう考えた。
「軍隊の中では」
「うん。確か自衛隊の中じゃ一佐って中々なれないわよ」
「じゃあこのお爺さん結構凄い人なのね」
「東大に入るよりも難しい場所にも入ってるしね」
 経理学校のことである。
「自衛官としても立派だったみたいよ」
「ふうん、そうなの」
「そして先生もやっていた」
 軍人自身も言ってくる。
「そういうことだからな」
「そうなんですね。それじゃあ」
「うむ、何だ」
「お爺さんのお名前は何ていうんですか?」
 愛実は軍人にもその怪訝な顔を見せて尋ねた。愛実は小柄なので軍人のその顔を見上げる形になっている。
「それで」
「そうだな。それではな」
「はい、教えてくれます?」
「わかった」
 軍人も愛実の言葉に頷く。そうしてだった。
 軍人は二人に己のことを話しだした。彼の生前の姿がわかろうとしていた。


第五話   完


                  2012・8・9

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