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八条学園怪異譚
第三話 聖花の人気その十

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「疲れも取れるから」
「だからなの」
「うん。先輩から貰ったの」
「そうなのね」
「どうかな、それで」
 聖花は愛実に問うた。その顔を覗く様にして。
「貰ってくれるかな」
「私の為に貰ってきたの?」
「あっ、そういうのじゃないけれど」
「違うの?」
「愛実ちゃんが疲れてるって言ったらくれたの」
 聖花はこのことを正直に話した。
「それでなの」
「私のこと話したの」
「疲れてるのよね。このことを先輩にお話したの」
 聖花は愛実の言ったことをそのまま信じていた。だから先輩にもそのことを話したのだ。そしてその結果貰ったことだったのだ。
 それでだ。愛実にその貰ったオレンジを差し出して言うのだった。
「これね」
「そうだったの。先輩から、それで」
 愛実は今日はじめて聖花をまともに見た。そのうえで。
 その聖花にだ。こう言ったのだった。
「私の為に」
「お節介だったかな」
「そんなことないわ」
 それは否定する愛実だった。
「全然。私の為だから」
「だからなの?」
「そう。だからね」
 それでだと言ってだ。それからだった。
 愛実は手を出してそのうえでオレンジを受け取った。それから聖花に対してあらためてこう言ったのだった。
「有り難う。じゃあ」
「食べてくれるのね」
「これ食べてね」
 そしてだというのだ。愛実自身の言葉で。
「それで元気になるね」
「うん、そうしてね」
「オレンジって甘酸っぱいしね」
「ビタミンも多いわよね」
「疲れてる時にはいいから」
 聖花の心が自分の心の中にも入っていくことも感じていた。そのオレンジにはそれがあった。
 それでオレンジ、丸く太陽の色のそれを見てだった。愛実はこの日はじめて笑顔になりそれでこう言ったのだった。
「お家に帰ったら食べるから」
「うん」
「明日は元気になるから」
 これは自分への誓いの言葉だった。聖花は気付いていないが。
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