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八条学園怪異譚
第三話 聖花の人気その七

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 見られるのは二人のうち聖花だけだった。声をかけられて注目されるのも。それがこの日の合コンだった。
 愛実はずっと一人だった。多くの人がいるのに孤独な状況だった。その孤独の中でぽつんと過ごしたのである。
 それが終わってから帰る時にだ。愛実は俯いて聖花に言った。
「私なんか」
「なんかって?」
「何の為にいたのかわからないけれど」
 こう言ったのである。注目され声をかけられていた聖花に対して。
「この合コン」
「あれっ、愛実ちゃん歌って食べてたよね」
「それだけだったから」
「それだけだったって。カラオケボックスに行ってたじゃない」 
 聖花は合コンというものをよく知らないまま愛実に言う。
「それでどうかしたの?」
「聖花ちゃん皆に声かけられてたよね」
 俯いて聖花を見ないうえでの言葉だった。夜になっており周囲には灯りがあるが愛実はその光も見てはいなかった。
「ずっと皆に」
「あっ、美術部の子達に?」
「男の子にも女の子にも」
 愛実は言っていく。
「先輩にも新入生の子からも」
「うん、楽しかったよ」
「いいわね」
 羨望の言葉だった。明らかな。
「皆に声かけてもらって」
「いいって?」
「そう。よかったわね」
 こう聖花に言うのだった。彼女を見ないまま。
「楽しかったわよね」
「またしたいよね」
「いいから」
「いいって?」
「私もういいから」
 聖花に対して言っていく。
「もう」
「いいって」
「だから。今度合コンあったらね」
 どうすればいいかとだ。愛実は俯いたまま言っていく。
「聖花ちゃん一人で行ってね」
「どうしてなの?」
「もういいから。私は」
「楽しくなかったの?ひょっとして」
「だからいいから」
 答えようとしない。答えたくなかった。
 そのうえで聖花と別れてだった。愛実は自分の家に帰った。家に帰るとすぐに父と母が笑顔で声をかけてきた。
「お帰り」
「カラオケどうだったの?」
「うん」
 沈んだままの声で応える。
「ちょっとね」
「ちょっと?」
「ちょっとって?」
「何でもないから」
 親達にもこう言うのだった。
「もう」
「もうってどうしたんだ?」
「本当に何があったのよ」
「疲れたから寝るから」
 愛実は両親にも多くを言わないまま自分の部屋に入った。そしてだった。
 その日は部屋で一人沈んだまま寝た。そうしたのである。
 次の日バスに乗るとバス停に彼女がいた。笑顔で挨拶をしてきた。
「おはよう」
「あっ、うん」
 弱い声でだ。愛実は応える。
「ちょっとね」
「ちょっとって?」
「私体調よくないから」
「えっ、風邪?」
「違うから」
 昨日のことを引き摺っていることは言わなかった。やはり言えなかった。
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