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八条学園怪異譚
プレリュードその十六
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はしてるから」
「だったらいいけれどね」
「うん、けれど」
 聖花をちらりと見てだ。また姉に話す。
「やっぱり。私って」
「とにかく努力するのよ」
 愛子は弱った感じになった妹を気遣ってここではこう告げた。
「いいわね」
「うん。そうすればいいのね」
「努力するってことは前を向くことだから」
「だからいいの?」
「そうよ。後ろを振り向いたら駄目なのよ」
 今は歌を詠まずにだ。愛子は愛実、そして聖花に話していく。
「妬んだりしたらね」
「お父さんにも言われたけれど」
「そうでしょ。そうして後ろを振り向いても何にもならないの」
「前を向かないと駄目なのね」
「前を向かないと前に歩けないじゃない」
 このこともだ。姉は妹に話した。
「だからよ。わかったわね」
「ううん。前なのね」
「人は前を歩く生き物よ」
 前を向いてだ。そうだというのだ。
「だからいいわね」
「わかったわ」
「そうして信じないといけないの」
 愛子は今は二人の間を見ていた。妹から視線を外して。
 そのうえで今度はこう言ったがだ。この言葉は聖花に届いた。
「信じるって決めたらね」
「それも前に進むってことですか?」
「聖花ちゃんは一旦握ってもらった手を離されたらどう思うかしら」
 その時はどうかとだ。愛子は聖花に尋ねた。
「それで勝手に前に行かれたら」
「寂しいです」
 そうなった場合、そうする相手の顔や姿は想像できなかった。だが小さい自分がそうされた場合を想像してだ。聖花は愛子に答えた。
「それに悲しいです」
「一人何処かに置いててぼりにされたらね」
「それに怖いです」
「だからよ。人を信じるってことはその人の手を握るのと同じでね」
「信じたら絶対にですか」
「そうしたら最後まで信じないと駄目なのよ」
 愛子は聖花にはこう告げた。
「そういうことなのよ」
「そうなんですか」
「そう。じゃあね」
 聖花に告げてだ・それからもだった。
 二人は愛子が詠む百人一首を続けた。それはこの日だけでなくずっと続けた。小学校の間も中学校の間も。続けていったのである。


プロローグ   完


                        2012・6・20
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