第3章 白き浮遊島(うきしま)
第27話 ティンダロスの猟犬
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言ってはいけない。彼女らだって、それがこの世界の決まりだからと言う理由で行った行為を悔いていない訳はない。
まして、漢が一度口から出して交わした約束と言うのは、結構、重い物だと思うのですけどね、俺は。
俺は、少し目線だけでルイズに挨拶をして、そのまま才人の部屋を出る。
その石造りの廊下には、先に部屋を出ていたタバサが俺の事を待っていました。ただ、これはそう珍しい事でもないのですが。
そして、俺と入れ替わるようにルイズが、才人の部屋に入って行く。
ルイズの方から、俺に対しては何も声を掛ける事はなく。
……やれやれ。御主人様にそこまで心配させて、何が判り合えていないですか。単に、月の明かりが、自分一人しか居ないこの部屋に差し込んで来る様を見つめている内に、その少し寂寞とした雰囲気の中から望郷の念を感じただけでしょうが。
もっとも、この世界にやって来てからずっと傍らに居た少女に婚約者が居て、その少女と自らの間に割り込みを掛けて来た、と言う、少しセンチになる要因も存在はしていましたけどね。
ルイズが入って行った事に因って才人の部屋の扉は閉められた。これで、この部屋は、使い魔とその主人。そして、月光のみが支配する世界となったと言う事。
それはもう、俺は関知しない別世界となったと言う事。
「貴方を召喚したのは間違いだった」
少し昏い廊下用の明かりが灯る中、俺の主人のやや抑揚に欠けた独特の口調、そして、彼女により相応しい声で紡がれる言葉が流れ出した。
かなり否定的な気を纏って。
同時に別の想いを内包して。
「相手を選べるような召喚では無かったんやから、気にする必要はない」
普段は真っ直ぐに俺を見つめる彼女の瞳が、今はやや俺をそらして虚空を見つめる。
もしかすると、その視線の先に、彼女の現在の心が有るのかも知れない。
彼女は何も答えない。いや、答えようとはしない。
「人の出会いに偶然は無い。あの召喚で俺が召喚出来たのなら、それは俺とタバサの間に某かの縁が有ったと言う事。
逆に、縁がないのなら、どんなに願ったとしても、どんなに恋い焦がれたとしても出会う事などない」
幾千の言葉を紡いでも、幾万の言葉を投げかけても、彼女の中のシコリ……罪悪感を拭い去る事は出来ないかも知れない。
でも……。
それでも、『初めに言葉ありき』。言葉は全ての源。
俺のくちびるから発せられ、空しく虚空に消えようとも、彼女の表面を滑り落ちようとも。
今の俺には言葉を紡いで行くしか他に方法が無い。
「それに、最初の運命が気に入らないのなら、それに『否』と唱えたら良い。
俺を召喚して仕舞った過去は変えられない。でも、
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