第3章 白き浮遊島(うきしま)
第27話 ティンダロスの猟犬
[5/12]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
才人達の部屋をノックしても一切返事がなく、仕方がないので扉に手を掛けるとあっさり開く扉。
その不用心な部屋の奥。窓枠に腰を下ろし、立てた片膝の上に右手を置き、室内に残した左手には己の矜持を示す武器を携え、淡い月光を浴びながら物思いに耽る少年。
……へぇ、結構、さまに成っているんじゃないですか。
「なぁ、忍。お前は帰りたくはないのか?」
唐突に。まして、部屋に誰が入って来たのかの確認もする事なく、俺に対してそう聞いて来る才人。
夕日に望郷の念を募らせる日本人は多いのですが、月を見て望郷の念を募らせるとは、意外に風流を解する人間だったんですね、才人くんは。
「天の原 ふりさけみれば 春日なる 三笠の山にいでし月かも
……と言う雰囲気かな、才人」
少し茶化したような雰囲気で、そう答える俺。一応、この俺の反応だけで気付いてくれると良いのですけど。
俺の後ろには、俺を召喚して仕舞った少女が居る事を。そして俺が、彼女の前で、そんな質問に答えられる訳がないと言う事も。
「俺は帰りたい」
至極真っ当な台詞を、そして、出来る事なら、今の俺の目の前では口にして欲しくない真情を吐露する才人。
普段の、静かな冬の晴れ渡った氷空の如き安定した彼女の心に、少しの陰りが生じる。
……どうする。回れ右すべきか。それとも、
「才人。貴族同士の結婚は……。いや、西洋の封建時代の女性の扱いはどう言う扱いだったか知っているか?」
少し、意味不明の質問を口にする俺。
基本的に中世ヨーロッパを支配して居た思想は男女同権とも、ましてフェミニズムともまったく違う思想の元に作り上げられていたはずです。
それに、俺の記憶が正しければ、カトリックには、つい最近まで女性は叙階されなかったはずですからね。中世の思想……上流階級の生活すべてを支配した宗教でも、フェミニズムとはかなり違った状況だったのです。その他は推して知るべしでしょう。
但し、もしかすると、その辺りに関してのブリミル教の戒律は多少、違う可能性も有りますが。
俺の問いに、才人は沈黙を以て答えと為した。
「俺では無く、ルイズに直接聞くべきやな。貴族同士の結婚と言うモンについては」
ヴァリエール家がどう言う意図を持って、たかが子爵の家に三女とは言え娘を嫁にやろうとしているのか、その理由を類推する事はかなり難しいのですが、何らかの政治的意図が双方に有るのは間違いないと思います。あの子爵にしたトコロで、子供に過ぎない現在のルイズを本気で愛しているとも思えないのですから。
まして、今朝のワルドのやり方はあざとかった。わざわざ、ルイズを立会人にして、彼女の目の前で才人を痛めつけようとするなど、とてもでは有りませ
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ