空白期(無印〜A's)
第二十六話 転
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払うように、僕は時計に目をやり、もう少しで待ち合わせの時間になることに気づいた。
「そろそろ、行こうか」
「うん、そうだね」
大事そうに髪留めを再び紙袋に仕舞ったなのはちゃんは、僕の声にしたがって、ゆっくりと歩き出す。
―――不意に変化が訪れたのは、その瞬間だった。
突如として、ビービーとどこか、不安感を煽るような警告音が鳴り始める。
―――な、なんだっ!?
驚きは声にならず、足を止めることしかできなかった。周りのお客さんも何が起きたのか、いまいち分からない様子で足を止めていた。もしも、これが火災などだったら、放送のようなものが入ってもおかしくないんだけど。
そんなことを考えている間にも事態は動く。警告音が鳴り始めると同時に、ゆっくりとショッピングモールの通路の間に隔壁が下りてくるのだ。防火扉のようにも見える。しかし、火災を警告するような放送は一切入らない。お客達もこの異常さに気づいたようだ。ガヤガヤと騒がしくなり、集団パニックに陥ろうとしていた。
そして、そのタイミングを見計らったように、次のフェイズへと事態は動いた。動いてしまった。
パンッ、という軽い爆竹が破裂したような音が鳴る。同時に、バリンッという何かが割れる音。決して小さくない音は、その場にいる全員に聞こえていた。その音源に注目が集まるのは当然ともいえた。その音の中心にいる男は、天を指すように腕を挙げていた。その先の手に握られたのは、小さく黒光りする筒状の物体。
―――漫画などでしか見たことないが、僕の記憶が正しければ、それはまさしく拳銃と呼ばれるものだった。
まさか、と思う。当たり前だ。日本に住んでいれば、そんなものにお目にかかる機会は滅多にない。世界中で、そんなことがおきていることは知っているが、それはあくまで、本の中やテレビの中での出来事。自分が巻き込まれることを考えたことなんて一切なかった。
だからだろう、答えはほとんど出ているのに、僕がまったく反応できずに、周りのように騒ぐ事ができずに、呆然とほうけていたのは。
「全員、大人しく俺達に従ってもらおうか」
ああ、夢なら覚めてほしいと思う。どうして、僕が巻き込まれるんだろうか、と思う。
自らが持つ力を誇示しながら、まったく怯えることなく、それが当然といわんばかりに、野生的な笑みを浮かべる男。僕は彼らの正体を理解した。彼らを僕が知っている言葉で表すならこういうべきだろう。
―――テロリスト、と。
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