第十話
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とが嬉しかった『兄ちゃんは頼りになる』と思う。弁当箱を忘れて持って行ってしまったエルシャンが悪い事はすっかり頭の中から飛んでいた。
「そうか、じゃあ今日は一緒に食べるようか」
バッグを高く持ち上げて見せる。エルシャン的にはむしろ望むところ。久しぶりに自分に頼る様子を見せる弟にテンションが上がった。
「うん」
自分のお願いを嬉しそうに聞き入れてくれる兄に、ウークははじける様な笑顔で答えた。
教室の窓際に席でエルシャンはウークとともに少し遅れた昼食を始める。
ランチボックスの中身は猫──フルント星に地球の猫にそっくりな動物が居たことエルシャンは驚いたが、しかも猫がフルント人にとって最良の友と呼ばれている事には笑ってしまった──を形どった所謂キャラ弁になっていた。
「兄ちゃんニャンコが可愛いね」
「母さんは本当に料理が上手だからね」
お弁当箱の中にデフォルメされた猫の形に作られたオムレツを見て、嬉しそうに顔を綻ばせるウークにエルシャンもつられて笑顔になる。本当なら急いで食べて昨日の女性を探しに行かなければならないのだが、ウークと一緒にランチをするために時間を潰してしまったというなら仕方なかった。トリマ家的には本当に仕方がないのだった。
「おや、ウーク……と誰だい」
聞き覚えのある。いや昨日からずっと耳から離れない声にエルシャンは弾かれたように振り替えると、そこには昨日の黒髪の女性が、一日中目を閉じても瞼の裏に映っていた姿のまま立っていた。
「あっ先生!」
ウークは飾り切りで花に見立てられたソーセージを刺したままのフォークを持って手を振る。
女性はドアが開け放たれたままの入り口を少し窮屈そうに潜ると、2人が座る窓際の席まで歩いてくる。
長身の、並みの男よりも10cm以上は高い長身で、背筋を伸ばし大股で颯爽と歩く様は綺麗というより格好良いと誰もが思うだろう。
「おや、君は昨日の……」
「ウークの兄でエルシャンです」
思いもよらず最初の関門の『自分の名前を名乗る』を突破する事が出来た。
「私はこのクラスの担任のネヴィラ・コリーです。今年正式採用になったばかりのまだ若輩ですが担任として弟さん事は任せてください。お兄さん」
引きしまった表情で真っ直ぐにエルシャンに話し掛けながら、最後の『お兄さん』でにっこりと笑う。
「こちらこそお願いします。ネヴィラ先生」
そう言って差し出されたネヴィラの手をエルシャンは取り握手しながら、真面目な顔と笑顔のギャップにやられたと心の中で白旗を上げる。
同時に第二関門の『相手の名前を知る』を突破して、更に手を握る事ができた事に尻尾が右──犬が尻尾を振るという行動は単純に感情の高まりを意味しており、喜びの衝動として振る場合は右側に振り、警戒や敵対のための感情の高ま
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