第六章 (2)
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一度立ち上がるのに、たいした力は要らなかった。痛みはとっくの昔に麻痺している。柚木の肩を掴む腕をもぎ離し、天高く差し上げて声高に叫んだ。
「ヘ――――イ!!」
人間アーチが、一斉にこちらを振り向いた。しゃがみこんだままの柚木さえもが、きょとんとした泣き顔で僕を見上げている。僕は満面の笑みを浮かべ、男の腕を両手で掴んだ。
「ヘイヘイ!おっさん!通りすがりのおっさん!!ヘイ!!」
……食いつくか、お願いだ、食いついてくれ……
祈るような気持ちで、必死に抵抗する男を、満面の笑みでアーチに引きずっていく。
両手をさしあげたまま、きょとんと立ち尽くす学生達。……やはり、駄目か……
―――そのとき、二人の体格のいい酔っ払い学生が、男の両肘をがっしと掴んだ。そして、通りをつんざくような蛮声をあげた!
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「ヘイ!通りすがりのおっさーん!!」
男の抵抗っぷりが学生達の嗜虐魂に火をつけたのか、人間アーチは急激に沸きかえった。男がもがけばもがくほど、ますます彼らをあおる。
よし、読み通りだ!
酔っ払った学生の集団は、怖いものや失うものが少ないのでタチが悪い。
僕の『通りすがりのおっさんを理不尽に人間アーチでもみくちゃにする』提案は、彼らの今の気分にぴったりマッチしたようだ。
酒臭い学生の群れにもみくちゃにされる男を待ち構えるように、僕も最前列で知らない学生と頭の上で手を組んでアーチを作った。
「ヘイヘイ!ヘーイ!!」
片手で携帯のカメラモードを立ち上げ、高く掲げる。男がアーチに押し込まれた瞬間、僕は男のサングラスをもぎ取り、強引に腕を割り込ませて写メを撮った。僕につられるようにして、何人かの携帯が連続してパシャパシャと瞬いた。必死の形相で顔を守る男の耳元で、僕は皆に分からないように呟いた。
「……紺野さんに、送りました」
ぴたり、と男の抵抗が止まる。男は一瞬、目をむいて僕を睨むと、そのまま弛緩したような表情で、ヘイヘイ叫ぶ学生のアーチに揉まれ流されていった。
――やっぱり、紺野さん関連だったか…
「……終わったの……?」
いつの間にか、僕の背中に近づいていた柚木が、狐につままれたような顔で呟いた。
「いや。一応最後のツメをやっとかないと……」
断続的な激痛は収まっていない。携帯にちらりと目をやって『送信完了』を確認した。そして一つ大きく息をつくと、僕はもう一度、最後の力を腹に込めて叫んだ。
「おぅお前ら、前に回れ、前に!!」
男が通り過ぎた後、残った人間アーチを満面の笑顔と激しい手招きでアーチの出口へ走らせる。彼らはばらばらとアーチをほどくと、ヘイヘイ叫びながらアーチの出口に続きのアーチを作った。
…一旦流れを作ってしまえば、あとは彼らの気が済むまで人間
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