第一話 刻限その五
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「もっとね。いいわね」
「気が向いたらな」
「全く。誰に似たのかしら」
「さてな」
母の今のぼやきには答えない。青ざめた返事と言うべきか。
「サイドカーはお爺ちゃんの形見だけれどお爺ちゃんはもっと立派で格好よかったし」
「そんなにか」
「立派なんてものじゃなかったわ」
言葉が少しうっとりとしたものになっていた。
「実の娘から見てもね。かなりね」
「ふうん」
「お父さんも格好いいし。これでも男を見る目はあるのよ」
「親父が格好いい」
今の母の言葉にはかなり懐疑的なようだった。何しろ背は高いが結構肥満していて家ではいつもシャツにトランクスといった格好だからだ。それでダンディとはとても思えなかったのだ。だから今の自分の母親の言葉には懐疑的な顔を見せたのである。声にもそれは出ていた。
「それはかなり」
「内面も見なさい」
しかし母はさらに言うのだった。
「そうすればわかるわよ」
「別にわかりたくもない」
ここでも素っ気無い牧村の返答だった。
「そんなことはな」
「そんなのでいいの?ぶっきらぼうは女の子にもてないわよ」
「女の子か」
「そうよ。あんた今付き合ってる人とかいないでしょ」
「別に構わない」
やはり素っ気無い返事だった。
「そんなことはな」
「まああんたがいいのならいいけれどね。それより」
「未久のことか」
「そうよ。塾が終わるにはまだかなり時間があるけれど」
「とりあえず晩御飯を食べたいな」
まずはそれだった。
「今日は何なんだ?」
「ホッケの開きに若布とお野菜のお味噌汁にもやしのおひたしよ」
「その三つか」
「あんたの大好物ばかりよ」
少し誇らしげな顔になって我が子に語る。
「それで満足でしょ」
「それに白い御飯があればな」
「普通はそれじゃない」
今の言葉にはすぐに突っ込みを入れた。
「玄米や麦御飯もいいけれど」
「それはホッケには合わない」
ささやかな好みであった。
「だからいい」
「そうでしょ。だから今日は普通の白い御飯だから感謝しなさい」
「有り難う」
「もっと心を込めなさい」
「わかった」
とはいっても素っ気無い返事は変わらないのだった。母親としても我が子のそうしたつれなさ、素っ気無さが内心快くないようだった。それもまた言葉に出す。
「そんなのだとお母さんみたいないい人には振り向いてもらえないということだけは言っておくわ」
「別にいい」
「もう好きにしなさい。さっさと食べてね」
「じゃあその通りにさせてもらう」
こう母に対して答えそのうえでホッケやお味噌汁、もやしを食べはじめた。まずは彼にとっては満足のいく夕食だった。丁度その時博士の研究室では。博士があの本を読みながら何者かと話をしていたのであった。
「ねえ
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