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弱者の足掻き
十話 「登っているのか降りているのか」
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 その後一通り街を周り適当な子供の集団に話しかけたらリーダーが不在。そして戻ってきたのがその少年、カジだった。軽い言い争いから乱闘に移り俺が圧勝しかけたところでゲームで決めようと提案が出された。そして白と二人で圧勝をし続けるも認めないカジ少年によって何度もゲームが続きそのままなし崩し的に他の連中とも知り合って仲良くなったのだ。
 ずっと昔の記憶。思い返してみると下らないものだ。


「あの時俺は階段の横の地面に足つけたんだよな。咄嗟にお前も支えてくれようとしてさ」
「そうでしたっけ?」
「そうだよ。確かな」


 夜風が少し冷たい。吐いた息が白くなるのを見ながら人気の少ない道を歩き過去を振り返る。


「階段って言えばさ、やったことあるか? 何段一気に跳べるかとかさ」
「いえ、ありませんがどんな物なんですか」
「そのまんまだよ。助走つけて跳んで、一気に上まで登る。上まで一段足りなくて最初一段登って始めるんだけど、助走つけられないから余計跳べなくて段差に膝ぶつけて見てる奴に笑われたりしてさ」
「楽しそうですね」
「降りる方もあってさ。一気に跳び降りて足が痺れるから膝曲げて衝撃殺そうとして、跳べたからってもっと上の段差から跳ぼうとして、でも怖くて一段二段って降りて跳んで、これまた助走足りなくてこけそうになってさ」


 懐かしい、もう戻れない記憶を語り、それを白は黙って聞いていく。
 跳んだ場所は学校だっただろうか。それとも同じに神社とかだっただろうか。これなら跳べると思って跳び、無理なら一段詰めて跳ぶ。
 俺がしたいことも結局はそうなのだ。跳んだ時少しでも足を痛め無い様にしたいだけ。


「そういえばさ、あの時の俺、登ってたんだっけ。それとも降りてたんだっけか」
「下に降りていたんだと思います」
「そうか。俺は上に向かってると思ってたよ。……あの時はさ、横に足を下ろすことができたんだよな」


 何か言おうとして、けれど何も言えなくて俺は曖昧に白い吐息をもらして口を紡ぐ。
 そんな俺に何か言いたげに見つめ、けれど何も言わずにただ黙って笑顔を向ける白の頭を乱暴に撫でた。
 

 夜の闇の中、俺たちは紙に記された場所へとただ静かに向かっていった。

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