第三話 日々その四
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「全部同じだよ」
「それでも工夫一つでか」
「変わるんだよ、これが」
「そういうものか」
「足らぬ足らぬは工夫が足らぬ」
胸を張って述べてみせたのだった。
「そういうものだよ」
「ふむ」
「値段はそのままだ」
これは客にとっていい意見であった。
「どうだい、いい話だろ」
「そうだな。しかしだ」
「何だい?」
「ロシアンティーだけじゃない話だな」
牧村が今度言うのはこのことだった。また茶を口に入れつつ言う。
「茶の淹れ方になると」
「ああ、基本さ」
基本であるということも語られた。
「基本こそが一番大事だからな、やっぱり」
「そうか、基本か」
「そうだよ。バイクだって何だってそうじゃないか」
マスターもまた彼がバイクに乗っていることは知っていた。そしてそのバイクがサイドカーであることも知っていたのである。とにかく目立つからだ。
「何だってね。紅茶だってね」
「そう言われるとよくわかるな」
「そうだよ。その点あんたは」
「俺は?」
「最近それを守っているかな」
楽しげに笑って彼に問うのであった。
「基本を忘れない。これをね」
「いや、それは」
こう問われて顔を少し曇らせた牧村であった。
「そういえば。忘れていたな」
「忘れていたのかい」
「色々あったからな」
また紅茶を含みつつ述べた。
「そのせいにしては駄目なのだが。やはり」
「忘れていたんだね」
「何かあるとすぐに忘れるな」
まだ飲んでいる。茶とジャムの二つの味を楽しみ続けている。
「そういうことはな」
「忘れたら駄目だよ、やっぱり」
笑いながら彼に述べるマスターだった。
「土台がないと何にもならないからね」
「土台か」
「基本はすなわち土台だよ」
こう例えてきたのであった。
「土台がないと。何にもならないさ」
「そういうものか」
「今何かしているのかい?」
不意に牧村に尋ねてきた。
「今は。どうだい?」
「しなければならなくなった」
髑髏天使のことは隠す。しかしそれでも隠して話すのだった。
「そういうところだ」
「趣味じゃなくて義務かい」
「しなければならなくなったことを義務と呼ぶのならそうなる」
これが牧村の返答であった。
「必然的にな」
「ふうん、あんたも結構とあるんだね」
「何かない人間もいない」
哲学的な言葉になっていた。彼はその哲学の中で語っていた。
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