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その男ゼロ ~my hometown is Roanapur~
#11 "Labyrinth of thought"
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ね。

アタシがカップを手にしたまま紅茶に思いを馳せていると、

「今日はありがとう。俺の仲間のために時間を割いてくれて。感謝している」

耳にようやく届くくらいの小さな声で、感謝の言葉が告げられた。

やれやれ、本当にアンタは変わらないね。

ゆっくりとカップをテーブルに置き、昔の姿を思いだしながら未だ背中を向けたままのゼロ(ガキ)にアタシから話し掛けてやる事にした。

「構やしないさ、昔を思い出したようで懐かしかったよ。おチビさん(タイニートット)

昔のように呼んでみたけど、特に振り向きもしてこなかった。アタシも特に気にせず話を続けた。

「そういやあ、昔アンタにこんな話をしてやったのを覚えているかい?
飢え死にしそうな二人が死体を見つける話さ。
その死体の傍にはその死者の遺品と財布が転がってる。一人の奴はこう主張する。死者に金なんか必要ない。これで俺達は生き延びる事が出来る。さあ、金を貰っていこう。
もう一人も主張する。その金はその人が生きてきた証しであり、それを奪う事はその人の誇りをも汚す事だ。自分はそんな卑劣な人間にはなりたくない。そんな事は止めるんだ。
どうだい? あの坊やとレヴィ嬢ちゃんが遭遇した場面とピタリと重なるじゃないか。
当然嬢ちゃんは前者。坊やは後者だね。
で、アンタならどうするんだい?
"あの時"は泣きながら抗議したよね。ひどい、何故そんな事をするんだと。何で大切な思い出の品を売ろうとするんだと。
今でもそうかい。どうなんだい? ええ?おチビさん(タイニートット)

アタシの声に揶揄するような響きが混じっていたのは認めるよ。
コイツが"ゼロ"と名乗り出して、色々活躍しているってのは聞いてる。エダあたりも随分気にしているようだ。大したものだとは思うけど、ねえ。

まだ窓の方なんぞ眺めて、此方も見れないようじゃ"ゼロ"なんて呼びたくないね。タイニートットで充分さ。膝の上で両手の指を絡ませながら、アタシはそんな事を考えていた。

部屋の隅で突っ立ってた"ゼロ"は漸く振り返ったかと思ったら、大股で部屋を横切りソファに座るアタシの横を通り過ぎていった。

そのまま部屋を出るかと思ったけど、応接室のドアの前まで辿り着いた時にさっきの質問の答えだけは寄越してきた。

「今の俺なら金は頂くよ。あの時のアンタのように思い出の品でも売り払うかもしれない。
そして、その事を決して忘れない。金を盗んだ自分。思い出の品を売り払った自分。金を盗んだ相手の顔。分かるのであれば名前さえも。己の罪も何もかも忘れる事なく。
そうして生きてゆくさ。アンタが"あの時"教えてくれたようにな」

それだけ言うと"ゼロ"は部屋を出ていった。

部屋に一人残ったアタシはゆっくりと立ち上が
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