第八話 芳香その十一
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「わしが今言えるのはこれだけじゃ」
「そうか」
「そしていいものがここにはある」
言いながらろく子に顔を向ける。見れば彼女はその両手にお盆を持っている。その上に丁寧にピラミッド型に重ねて置かれているものは。
「どうじゃ?」
「柿か」
見ればそれだった。橙色の見るからに適度な硬さを持っているその柿が置かれていた。牧村はその柿を見て己の中で何かが動くのを感じていた。
「一緒にと思っているのじゃがな」
「あっ、柿だ」
「いいね、それ」
ここでまた妖怪達も声をあげる。
「僕柿好きなんだよね」
「そうそう」
「って御前河童じゃないか」
のっぺらぼうが河童に突っ込みを入れる。
「何で河童が柿食べるんだよ」
「顔に何もない御前に言われたくないね」
どっちもどっちのやり取りをはじめてきた。
「そもそも御前食べられるのか?」
「食べられるよ」
しれっとして言うのっぺらぼうだった。
「もう何でもね」
「匂いは?」
「わかるよ」
こうも答える。当然鼻もない。そして今度は彼から言ってきた。
「勿論目だって見えるしね」
「嘘つけ」
「嘘はつかないさ」
あくまで主張してきた。
「嘘じゃないさ。本当に見えてるんだからさ」
「柿もか?」
「勿論だよ」
見れば何もないその顔を河童に向かい合わせている。どうやらその言葉は嘘ではないようだった。やはりはっきりと見えているのである。
「今だって喋ってるだろ?」
「そういえばそうか」
「そういうこと。見えていなくてもあるんだよ」
彼の言葉によればそうである。
「ちゃんとね」
「一体どうなってるんだよ」
河童は彼の言葉を聞いてもどういうことかわからず首を捻る。
「全く。わからない奴だよ」
「そういう君はどうして手が左右つながってるの?」
「そういう身体のつくりになってるんだよ」
その河童の返事である。
「そういうふうにね」
「それもかなりわからないんだけれどさ」
「そうかな。普通だろ」
「普通じゃないよ」
どう見ても普通ではない顔ののっぺらぼうの言葉である。
「そんな手。しかも伸びたり縮んだりするし」
「何処かおかしいかな」
「だからおかしいって。第一柿だって」
「好きだから仕方ないだろ」
どうやらここには理由がないようだ。
「僕だって胡瓜ばかり食べるわけじゃないさ」
「そうだったんだ」
「胡瓜は主食」
つまり人間にとっての五穀ということだった。米や麦と同じものなのである。
「そして柿はおやつなんだよ」
「そういうことだったんだ」
「そうだよ。じゃあろく子さん」
「はい」
ろく子は河童の言葉にその知的な顔をにこりとさせる。今は首は伸びてはいない。
「柿僕達の分もある?」
「どうなの、そこは」
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