第八話 芳香その八
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「向こうに何か動きが」
「おかしな奴が出て来た」
博士の問いに応えてこう述べるのだった。
「妙なのがな」
「妙なのが?」
「二人出た」
その人数まで告げる。
「二人だ。一人は顎鬚のある老人で」
「老人・・・・・・」
「もう一人は若い女だ。その二人だ」
「その二人か」
「知っているのか?」
「もしやと思うが」
老人と女と聞いて顔を微妙に曇らせる博士だった。そしてそのうえでまた牧村に対して言ってきた。
「その二人はこんな連中ではなかったか?」
「むっ!?」
「ああ、済まぬ」
ここで筆と硯がぽん、と博士の机に出て来た。どちらもそれぞれ妖怪である。筆も硯も百年以上経ち自然と命を持ったものなのだ。
その二つを使って白い紙のうえにすらすらと描いていく。そして出て来たのは。
「こういう顔だったか?」
「むっ!?」
意外なことに和風で上手な絵だった。筆なので時代劇の人相書きを思わせる。そこにあるのはまさに。牧村が見たあの二人だったのだ。
「どうじゃ?この二人か?」
「そうだ」
牧村はその人相書きを見つつ答えた。そこにあったのは確かにその二人だった。見間違える筈もない、そこまで同じだったのだ。
「その二人だ」
「そうか。やはりな」
博士はそれを聞いて納得したような顔で頷いた。頷きながら自身の白い顎鬚をしごいている。その動作が如何にも彼の姿に合っていた。
「そうだと思っておったわ」
「それでこの二人は何なのだ?」
博士が頷くのを見ながらそのことを問うのだった。
「魔物なのはわかるが」
「魔物は魔物でもじゃ」
語る博士の目が鋭いものになったのを見た。
「尋常な奴等ではないぞ」
「というと」
「どちらも魔物の神々なのじゃよ」
「神々!?」
神と聞いて牧村の目の色が一変した。探るような、同時に学ぶ目からすぐに剣呑な目になった。まるでそこに敵がいるような目であった。
「魔物に神がいるのか」
「そうじゃよ。人間の世界にもおるじゃろ」
「ああ」
「無神論者もまあおるがな」
無神論者というところで博士はその言葉を馬鹿にしたように口の左端を歪めた。髭に隠れていたがその髭が動いたのでわかるのだった。
「それでもおることは確かじゃ」
「色々な神がな」
「特に日本の国にはな。それと同じじゃよ」
「魔物の神か」
「ああ、それは僕達も同じだから」
「そこんところも宜しくね」
これまで今の場では彼等は彼等で適当に博士や牧村の周りを徘徊したり部屋の端に腰を下ろして酒をやっていた妖怪達が牧村に対して言ってきたのだった。
「妖怪にもね。神様がいるから」
「それもかなりの数がね」
「妖怪にもいるのか」
「人間も妖怪もそういうところは変わらんよ」
こう述べる博士だった。
「
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