第二話 天使その二
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「切るぞ。それでそちらに行く」
「うん、御願い」
どうやら自分の言葉を信じたようだ。そのことに内心で安堵の息を漏らしながら自分のリードで話を進めていくのだった。そしてそれは成功した。
「それじゃあね。待ってるからね」
「ああ。すぐに行く」
話が終わるとすぐに電話を切った。そうしてそれを福のポケットに戻してサイドカーに乗った。だがそれでも心の中では先程のことを思わずにはいられなかった。
「どういうことなんだ、これは」
あのミラーに映った姿。今はヘルメットを被りサイドカーに乗る自分が見える。だがあの姿は違っていた。何故違っていたのかさえもわからないのだから。
「・・・・・・夢ではないとしたら」
ヘルメットの中で苦い顔をして呟く。
「忌まわしい現実だな。どういうわけかわからないが」
だがこれ以上何かを言うことも考えることもできなかった。妹を迎えに行かなくてはいけなかったからだ。彼はサイドカーを進ませ場を後にした。その姿を一つの影が見ていることには気付いていなかった。
塾は六階建てのビルだった。予備校としても使われている。その赤い煉瓦をイメージした外装のビルの前にサイドカーを止めると小柄で顔が丸く髪を左右ではねさせた女の子がガラスの自動扉の入り口の前に立っていた。少しぽっちゃりとした身体つきで色は白い。顔立ちは幼いがそれでも目ははっきりとしていて口は小さい。青いジーンズと白いパーカーを着ておりそれを上手く着こなしていた。
その彼女は牧村のサイドカーを見ると。笑顔で彼を呼んできた。
「お兄ちゃん、やっと来てくれたのね」
「ああ、済まない」
サイドカーを彼女の前で止めヘルメットを脱ぎつつ答えた。
「少し寄っていてな」
「コンビニ?」
「まあな」
ここでの返答は少し誤魔化したものだった。
「アイスを食べていた。悪かったな」
「お兄ちゃんがアイスねえ」
その少女未久は兄がアイスを食べていたという告白を聞いてまずは首を傾げさせた。そのうえでいぶかしむような声で言うのだった。
「何か珍しいね、お兄ちゃんがアイスって」
「ハーゲンダッツなら食べる」
妹に対してもぶっきらぼうなのは変わらなかった。
「あれならな」
「贅沢なのね、案外」
「ささやかな贅沢だ」
ぶっきらぼうな返答を続ける。
「アイスクリーム程度じゃな」
「まあそうだけれど。それじゃあね」
「ああ」
「車のところに乗っていいよね」
サイドカーを見つつ兄に問うた。牧村はサイドカーに乗ったままだ。何時でも出られるようにしているのがわかる。ヘルメットも両手に持ったままだ。
「いつもみたいに」
「サイドカーは人を横に乗せるものだ」
今更といった感じの言葉だった。
「ヘルメットも用意してある。乗れ」
「うん。ところでさ
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