第六十話 最終その十九
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「ビーフンを炒めるから」
「肉じゃがとビーフンか」
「それでいいわよね」
「美味そうだな」
その組み合わせを聞いて静かに言うのだった。言いながらだ。
紅茶を淹れている。コップにティーカップを入れてだ。そこにお湯を注ぎ込む。
そうしてからだ。テーブルに座ってその紅茶を飲みながら話すのだった。
「それはまた」
「そうでしょ。肉じゃがはね」
「肉じゃがはか」
「久し振りに作ったけれど」
それでもだとだ。自分の横の鍋を見ながら話す。
「上手くいったわ」
「では楽しみだな」
「そうでしょ。あんたも未久も肉じゃが好きでしょ」
「じゃがいも自体が好きだ」
「そうそう、ジャガイモ自体がね」
兄妹の好物なのだ。
「それも考えて作ったのよ」
「悪いな。それは」
「いいのよ。好きなものを食べて成長できるのならね」
「それに越したことはないか」
「そういうことよ。お父さんには」
夫のことも忘れていなかった。
「ビーフンがあるから」
「そういえばビーフンは親父の好物だったな」
「好きなものを用意するのがお母さんの仕事よ」
話しながら言葉を微笑まさせていた。
「好きなものを開拓するのもね」
「どちらもか」
「そうよ。じゃあ未久はね」
「迎えに行く」
その話は必ずだというのだった。
「今からな」
「行ってらっしゃい」
「変わらないな」
母に応えてからだ。牧村はこうも言うのだった。
「何もかもな」
「何もかもがって?」
「世界は何も変わらないな」
これが彼が今言うことだった。
「同じか」
「何言ってるのかわからないけれどね」
母は息子の今の言葉には首を軽く傾げさせてから応えた。
「それでも。未久はね」
「わかっている。行かせてもらう」
「御願いね」
そのことを話してからだ。牧村はだ。
席を立ちそのうえで妹を迎えに行くのだった。彼は完全に日常に戻っていた。戦いを終えてだ。その日常の世界に戻ったのである。
第六十話 完
2011・5・27
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