第八話 芳香その四
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「京都なんか。この神戸だって大阪だって美味しいものは安くてすぐに手に入るんだから」
「その通りだ」
暫く沈黙していた牧村がここで再び口を開いたのだった。
「俺も。京都には興味がない」
「そういえばあんた京都のことは話さないわよね」
「ああ、そうだよな」
母も父も今そのことに気付いたのだった。
「それよりも大阪よね」
「それとこの神戸だよな」
「飾った場所は好きじゃない」
彼はこうも言うのだった。確かに京都という街は飾った場所ではある。古都というせいであるがそこには気位というものが存在している街なのだ。
「だから。大阪がいい」
「それかこの神戸ね」
「東京はもっと嫌いだがな」
「東京なんていい場所一つもないじゃない」
未久が兄に続く形でばっさりと切り捨てた。
「食べ物はまずいし寒いし」
「その通りだ」
「そこにいくとこのお豆腐なんて」
未久は話しながらその豆腐をまた食べる。
「美味しいわよ。京都は好きじゃないけれど」
「幾らでも食べられるでしょ」
「うん」
母の問いに今度は満面の笑顔で答えるのだった。
「何かどんどん食べられるわ」
「それが京都のお豆腐なのよ」
「京都の」
「まあそのうちわかるわ。京都の料理はね」
話は京料理に関するものになってきた。
「素材を生かして」
「素材を」
「そして香りも楽しむものなのよ」
「そうなんだ」
「そういうことよ。まあ今はわからなくていいわ」
こうも言う母だった。
「今はね。そのうちわかるから」
「私が大人になったらかしら」
「そういうことよ。来期はもうすぐかしらね」
「京料理には興味はない」
「あら、素っ気無いこと」
息子の今の言葉に口を尖らせてみせる。
「そんなに大阪や神戸がいいの」
「お高く止まったのは好きじゃない」
結局はそこに行き着くのだった。
「だから。京都は」
「まあ食べ物の好き嫌いじゃないからいいけれど」
こう言って納得はする母親だった。だがその間にも豆腐を食べ続けている。
「それにしてもあんたも」
「そうよねえ。昔から好き嫌いははっきりしてるのよね」
未久が苦笑いと共にまた述べた。
「お兄ちゃんってね。無表情なのに」
「悪いか」
「少なくとも曖昧なのよりはいいんじゃないの?」
とりあえず自分の考えを述べる未久だった。
「それは」
「そうか。ならいいんだな」
「完全とは思えないけれどね。まあとにかく」
彼女はさらに言葉を続けていく。
「最後は雑炊だしね」
「そうよ。卵も入れるから」
また母が言う。
「楽しみにしておいてね」
「わかったわ。それでデザートは」
「ネーブルあるわよ」
「ああ、それね」
ネーブルと聞いてまた明るい笑みになる未久だった。
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