第七話 九階その十六
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「俺の姿を見てな。驚いたら駄目だぜ」
「生憎だが化け物を見るのには慣れている」
彼もこう返す。
「それはな」
「へえ。そうなのかい」
「言いたいことはそれだけか」
牧村は既にその身体に気をまとっていた。闘っていないだけである。
「それだけか。ならもういいか」
「気が早いね。っていうか遊び心はないんだね」
「そんなものは今は必要ない」
またナックラ=ビーに言葉を返す。
「今はな」
「わかったさ。それじゃあな」
「はじめるのだな」
「ああ。行くぜ」
この言葉と共に彼の姿が変貌しだした。
「楽しませてもらうからよ」
「むっ!?」
男の姿の変貌は異様なものだった。まず肌が剥けて飛び散り足が別に二本生える。そしてさらに首がなくなり肩に直接くっつく。目は巨大な一つ目となり異形の姿と成り果てた。牧村はその外見を見てまずは言った。
「ケンタウロスか」
「ギリシアだったか?」
ナックラ=ビーは牧村の話を聞いて述べた。
「確か。馬と人間の合いの子だったよな」
「そうだ」
「生憎それとは違うんだよ」
頭をぐるぐると回しながら彼の言葉に答える。
「それはな。生憎だな」
「違うのか」
「俺はスコットランドであいつ等はギリシアだろうが」
「それはそうだがな」
「それにだ」
「それに?」
「俺はあの連中よりずっと強いぜ」
唇のない剥き出しの口で笑っていた。鋭い牙が見える。
「ずっとな」
「だが足は馬のものだな」
「そうさ」
このことは否定しなかった。
「海の中じゃこれが一番動き易いんだよ」
「海?」
「ああ、言い忘れていたな。俺は元々海にいるんだよ」
自分の生態も話す。どうやらその辺りはかなり複雑なようである。
「そこから出てな」
「出て。何だ」
「人間共をぶっ殺してやるんだよ」
左手の拳を掲げて楽しげに笑う。その皮膚のない手で。
「ぶん殴ったり引き裂いたりしてな」
「つまり貴様はそういう魔物か」
「そうさ。生きている奴は目に入ったら絶対にぶっ殺す」
実に荒っぽい返答だった。
「それが俺のやり方さ。だからあんたもな」
「貴様にとっては残念なことだが」
牧村はナックラ=ビーの自信に満ちた言葉に応える形で言ってきた。
「それは今ここで終わる」
「俺があんたに倒されるからだっとでもいうのかい?」
「そう、その通りだ」
言いながら両手に拳を作る。そうしてそれを胸の前で打ち合わせようとする。
「一つ言っておく」
「何だ?」
「俺は本来は魔物はどうでもいい」
これは牧村の本音である。
「それはな。どうでもいいのだ」
「そうなのかよ」
「俺に向かうのなら相手をするだけだ。だが」
「だが?」
「貴様の邪悪さは許さん」
こう言うのだった。
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