Neuf
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はルパンの手を振り払った。後ろ手に壁に手をつき、垂れ下がった髪の間からルパンを見た。
「ナリョーシャ」
ルパンは悲しそうに微笑んだ。
「きみを愛している。心から」
聞きたくない!この男の台詞は、どれもこれも、本来わたしに向けられるようなものじゃない。他の女に言えば、喜びのあまり身を投げ出す者さえいるだろうに、どうしてこの男はわたしにばかり構うのか。
本意でも、偽りでも、どっちだってどうでもいい。そんな綺麗な言葉、わたしは欲しいと願ったことすらない。反吐が出る。
「あんたを、殺してやる…」
体に収まりきらない苛立ちをどうにもできないまま、わたしはぎりぎりと歯を噛みしめながら言った。
「あんたを、殺してやる!」
「いいよ、ナリョーシャ」
ルパンはかすかに微笑んだまま、言った。寂しさと諦めがまぜこぜになった、そんな顔で。
「君がそれを望むなら」
ルパンは懐に手を入れた。わたしは一瞬何が出てきてもいいように身を縮こまらせたが、取り出されたのは装飾も美しい綺麗な銀の短刀だった。やけに古い。
「これはきみのものだ。きっときみを守ってくれる」
ルパンはわたしにそれを差し出した。わたしはルパンの本意がわからず動けない。
ルパンが素早くわたしに近づいて、わたしの手を取ると短刀を持たせようとした。しまったと気づいた時には遅かった。ルパンはわたしの手を引いたまま、短刀を持たせることもなく、まじまじとわたしの治りかけの手を見た。その瞳が冷えていくのを、わたしはどうにもできずただ見ていた。
「…ナリョーシャ」
わたしの名を呼ぶ声は恐ろしく静かだ。
「これは、誰に?」
エルがルパンに見つかるような間抜けじゃないことを、わたしは願うしかなかった。
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