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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百五十四話 赦しを請う者
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つ決まっていない。常に資金繰りに困っている零細企業の社長、そう紹介されたら納得してしまいそうだ。

「御身体はもう宜しいのですか」
「御蔭様でもう何とも有りません。手厚い看護を手配して頂きました事、心から感謝します」
声に濁りは感じられない。何ともないというのは本当だろう。病院からもそういう報告は出ている。もっともアルコールを口にしたら全てが終わりだが。

アーサー・リンチ少将、エル・ファシルで民間人を見捨てて逃げた同盟の指揮官。ヤン・ウェンリーの上官でもあった。将来を期待されていた士官でもあったがエル・ファシルで全てを失った。原作ではラインハルトの謀略の実行者としてハイネセンに赴き内乱を発生させた。最後は自らの正体を晒しグリーンヒル大将を殺しクーデターを起こした連中に殺された。だが、この世界では生きている……。

「同盟には帰りたくないという事でしたので捕虜交換後、帝国に亡命を希望した、そういう形で対応させていただきます。階級は帝国軍少将となります、如何ですか」
「有難うございます、私のようなものには過分な御配慮です。感謝します」
「では同盟政府にもそのように伝えさせて頂きます」
リンチ少将が黙って頭を下げた。

「今後の事ですが御希望が有りますか。少将は前線だけでなくデスクワークでも有能で有ったと聞いています。遠慮せずに仰ってください」
いかんな、リンチが顔を歪めている。俺は嫌味を言ったんじゃないんだが、そうは受け取らなかったか……。

「軍人としてはもう受け入れられる事は有りますまい。小官は民間人を見捨てて逃げた卑怯者なのですから……」
絞り出す様な声だ。辛かったのだろうな……。
「そう卑下なさる事は無いと思いますが……」
「……」
やはり難しいか……、仕方ないな。

「では私の仕事を手伝って頂けませんか」
「閣下のお仕事ですか」
「私は今辺境星域開発の責任者になっています。その仕事を手伝って貰いたいのです」
「……」
気乗りはしないか。

「何処かでひっそりと過ごしたい、そうお考えですか」
ヒクっとリンチの肩が動いた、図星か。
「ですがそれではまたアルコールに逃げる事になりませんか」

リンチが項垂れている。身体が小刻みに震えていた。自分でも分かっているのだろう、それでも何処かに逃げたい、そう思っている自分がいる……。地獄だな、リンチにとって生きる事は地獄なのかもしれない。

“その時は死ね、今のお前に生きる価値があると思っているのか?”
“ばかどもが…俺はグリーンヒルの名誉を救ってやったのだぞ。そう思わんか……生きて裁判にかけられるより、奴は死んだ方がましだったろう……ふふん、名誉か、くだらん”

くだらないと言いつつ誰よりも名誉に拘ったとしか思えない。誰かを自分と同じ境遇に
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