第九話
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まで言われな──」
「惚れた女に粉かけることも出来ないような情けない男に嫁が来るか!」
抗議の声を上げるが一喝されて、二の句が継げない。
「もう終わりだ。歴史あるトリマ家が……ご先祖様になんと詫びれば良いものか」
芝居がかった大きな動きでポアーチは俯き頭を掻き毟る。
「それならいっそ、ウークに継がせれば」
エルシャンとしても家を継ぎたいとは思ってなかった。むしろ積極的に継ぎたくないと言うのが正直な気持ちだった。
それでも、自分が逃げたらウークに家長の、当主の座が行くと思うと可哀想なので我慢して継ぐつもりだった位だ。
だがポアーチがそこまで言うのなら、渡りに船と弟に譲ってしまった方が良いのではと思った。
「弟に押し付けて可哀想だと思わないのか!」
「……やっぱり可哀想なんだ」
ぶっちゃけ過ぎた父の発言にエルシャンは眩暈に似たものを感じた。余程『じゃあ俺は可哀想じゃないのかよ』と突っ込みたかったが、それよりも先に「私だって継ぎたくなんて無かったよ!」とポアーチに告白をされて、思わずその言葉を飲み込んでしまった。
「……うわ、言っちゃったよこの人」
どれだけトリマ家の当主って嫌な地位なのかとエルシャンは自分の将来に一抹どころか超巨大な不安を覚え、浮かび上がる嫌な汗に身体を濡らした。
「兄貴が生きていてくれれば俺はもっと……」
ポアーチは話を脱線させて愚痴を言い始める。彼が25歳で当主の座を継いでからの苦労話が延々と続く。
「──ともかくだ、明日はちゃんと自分の名前を名乗って相手の名前も聞いてくるんだ」
話の脱線に遅すぎるが気付いたポアーチはいきなり、設定目標を息子に押し付ける。
「父さん。ハードルが高いよ」
恋の草食獣には難しかったようだ。
彼には、恋愛とは全く別の形で人間関係を形成し終えた相手に対して、次第に恋愛関係に発展させるというアプローチ手法しか持ち合わせていなかった。
正直、明日彼女の前に立ち、名前を尋ねると考えただけで緊張する。
「ふざけるな! 本当なら告白もするのが普通だろ。お前は本当に俺の子か?」
「……母さんに訊いてくる。父さんにそう言われたって」
そんな弱気な息子に喝を入れる意味で強く厳しい言葉を吐いたつもりだったが、流石にこの台詞にはエルシャンもカチンと来た。
「失言ですごめんなさい! お願い止めて! 父さんを死なせないで!」
部屋を出て行こうとするエルシャンにポアーチは必死に縋りつく。
「随分と色んな女の人に積極的だったみたいだし。これは伝えておかないと」
「違うの! ユーシンと会う前の話なの! 本当だから母さん一筋だから!」
「じゃあ、この壁の裏にある男のロマンぎっしりなアレは何?」
「な、何故それを!?」
「アレについてどう思うか、やっぱり
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