アインクラッド編
回想――涙の理由
[1/5]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
「あの時は本当にびっくりしたなー。私も少し声が高いって思うくらいだったし」
と、後ろから掛けられた声でキリトは物思いに耽っていた思考をリアルタイムに引き戻した。
背後で丁寧にキリトの長い黒髪をタオルで拭いているのは〈月夜の黒猫団〉の紅一点、サチ。
「まあ、ずっと攻略組にいてばれないように努力してたからな。一瞬で見破られたらわたしがショックだ」
ぼーっとする頭でキリトは答える。
あの後、結局サチの勢いに負けて2人でお風呂に入った。
昔話(と言っても一年も経っていないが)に華を咲かせて長い時間。
そして結果、のぼせた。
この世界では汗をかかないし汚れが発生することが無いので、風呂に入る理由はない。キリトは時々気分で入る程度。
それでも、女子なら毎日入るべき(サチ談)らしい。
身だしなみに気を遣う必要性を感じないキリトとしては風呂付きの宿屋は、高いのでコルの無駄使いという認識しかないが。
「ダッカーなんて、歩きながら飲んでいたジュース口から盛大に吹き出してたよねー」
「そのせいで目の前にいたササマルの顔がびしょ濡れだったけどな」
会話をしながらも、サチは慣れた手つきでキリトの髪の毛を乾かす。
この世界の〈濡れた状況〉というのは意外と細かく設定されており、雨の中を歩いたり風呂に入れば擬似的感覚だが髪の毛が体にへばり付く感覚まで忠実に再現されている。
当然、そのままでは気持ち悪いので〈乾かす〉用のアイテムとしてタオルなどが存在するが、こちらも面倒なことに髪の毛の長さやボリュームで乾かすまでに要する時間が変化する。
簡単に言えば、肩までしか髪の毛を伸ばしていないサチに比べて、腰近くまで髪の毛を伸ばしているキリトの方が数倍乾かすのに時間が掛かる、ということだ。これがキリトが風呂に入るのを面倒だと思うもう1つの理由だ。
高級アイテムである〈ドライヤー〉なる品を使えば瞬時に乾くらしいが、そんなものを買う余裕などどこにもないし、買う気もない。
別にどんな風に乾かそうとも髪の毛が痛む心配は無いので、豪快にわっしゃわっしゃとタオルを動かすキリトとは違い、サチは丁寧にタオルで水気を拭き取っている。
適当でいいと言ったのだが、「綺麗な黒髪がもったいない!」とめずらしく強気な態度で主張してきたサチの迫力に負けてしまい、お任せしている状況だ。
「キリトが女の子だってことも驚いたけど、今日もアスカのことを見てびっくりしたなー。まさか本当にあの顔がリアルと一緒だったなんてね」
「そういえば、サチはアスカと知り合いだったんだよな」
キリトが確認するように訊ねる。
「そうだよ。〈始まりの街〉でパーティーメンバーの上限まで人を誘おうって話になって、見かける人に手当たり次第に声を掛けてた時にアスカと出会ったんだけ
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ