アインクラッド編
回想――涙の理由
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どう思っているかなど明白だった。
親しみやすい笑みを浮かべたケイタの隣ではサチも期待の籠もった眼差しをキリトに向けていた。
他の3人―――ダッカー、テツオ、ササマル―――もキリトの返答に興味がある様子だった。
攻略組であること、性別を偽っていたことを明かしたのに、自分のことを拒まずに受け入れてくれる彼らに、キリトの心の鎖も解けた気がした。
キリトは慣れない笑みを浮かべて、
「じゃあ、わたしでいいなら、手伝うよ」
と、言った。
それからの日々はあっという間に過ぎていった。
1人で迷宮区に籠もっている時に比べて圧倒的に楽しいと感じていたからだろう。
楽しい時間とは得てして早く過ぎ去ってしまうものだ。
前衛が出来る片手剣士のキリトが手伝うことによって〈月夜の黒猫団〉のビルド構成は飛躍的に安定した。
ギルドに入ることは遠慮しており毎日手伝えた訳ではないが、それでも可能な限り足を運んでいた。
やはり高レベルのプレイヤーが1人いることは大きな変化をもたらした。
圧倒的なレベルを保持していたキリトは壁役に徹して、経験値ボーナスがつくラストアタックを可能な限り他の人に譲り続け、攻略組の知識を提供して効率の良い狩り場や、相場より安く商品を売っているショップを教えたりすることによって、レベリングの効率を大幅に向上させることに成功。
キリトが初めて〈月夜の黒猫団〉に出会った時に開いていた最前線の階層との差は10だったが、キリトが手伝いを了承してから1ヶ月で差を5まで縮めていた。
キリトはそう近くないうちに彼らが攻略組に参加することを確信していた。
だが、1つだけ問題があった。
サチの片手剣士への転向だけ芳しくなかった。
それは無理ないことだった。
この世界における戦闘で死の恐怖を押さえつけて凶悪な見た目のモンスターに至近距離で相対するにはかなりの胆力が必要だ。
キリトはケイタ達に他三人のうちの誰かがサチの替わりに前衛に転向したらどうだ、と提案したが、スキル熟練度や諸々の事情を鑑みればサチが一番楽であるのも事実だった。
キリトはサチに無理をしなくていい、と言い続けたが、〈月夜の黒猫団〉の他の4人から日に日に大きくなっているプレッシャーが掛けられていくように感じたのだろう。
サチはある日、急に宿屋から失踪した。
キリトは〈索敵スキル〉の派生スキルである〈追跡スキル〉を使ってサチが隠蔽効果付きのコートを身に纏い、主街区の端に位置する水路の暗闇の中に座り込んでいるのを見つけた。
その時のサチが言った言葉一字一句、キリトは今でも思い出せる。
――――ねえ、キリト。一緒にどっか逃げよ。
――――・・・・私、死ぬの怖い。この頃あんまり寝れないの。
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