第9話 転入生と茶碗蒸し
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クリーム追加って……、どうしたんだい?」
桃子の後ろから若い男性が近づいてきた。恭也に似ているが、彼よりも丸みをおびた余裕のある雰囲気を持った男性だが、今は場の様子に少し困惑したようだ。
「士郎さんっ! あ、彼が恭也が話してた純吾君で、今日聖祥に入校したみたいなの。それで、彼の作った茶わん蒸しをこうやって食べさせてもらっていたの!」
場の空気を変えるチャンスと士郎と呼ばれた男性に桃子が口早に事情を話した。追従するようになのは達もうんうんと頷く。
「ほぉ、今手に持ってるのがそれだね。ちょっと拝借……」
それを聞いた士郎は、ひょいと桃子が持っていた茶碗蒸しからひとすくいスプーンにとり、口に運んだ。その瞬間、目を驚きに見開き、純吾の方へ体を向ける。
「すごいじゃないか! こんなに美味い茶碗蒸し、滅多に食べられるものじゃないよ」
突然褒められた事で純吾も悲しそうな表情から、びっくりしたかのように細い目を少しだけしばたかせる。その様子を見てある事を決心した桃子は、純吾の方へ近づいてこう提案した。
「ねぇ純吾君。良かったらここでも料理を作ってみない? この茶碗蒸し、本当にお店に出しても充分なものだし、私でよかったら料理を教えることもできるわよ?」
(桃子っ? いきなりどうしたんだ――)
(事情は後で話すから、今は私にあわせてください)
突然の桃子の提案に、士郎は急いで彼女の方を向き、小声で意図の確認をしたが桃子に強引に丸めこまれる。そしてそのまま純吾の方へ向き直り、夫婦は彼の返答を待った。
「……いいの? ジュンゴ、板前になりたいんだよ?」
桃子のいきなりの提案に、純吾はきょろっと細めていた目を開いて答えた。
桃子はそれはもっともだと苦笑しながら、その問いに答えた。
「ふふっ、板前さんになりたいんだ。大丈夫、確かにお魚や和食は扱ってないけど、修行中に色々な料理を試したし、基本的なことだったら違いはあまりないと思うわよ。
それに板前さんでも、色々な料理に触れるのはいいことだと思うわよ? ここなら今まで純吾君の修行していた環境とは違うし、いい刺激になると思うわ」
「あ、あぁ。この茶碗蒸しだけでも十分商品にはなる。それに、俺たちとしても純吾君に料理を修業してもらって、新しいジャンルの料理をお客さんにだせるんならそれに越したことはないさ」
士郎も桃子に合わせて純吾に提案する。それに小さく頷いて謝意を表した桃子は、「勿論無理はいわないわ、どう?」と改めて純吾に問いかける。
フム、と純吾は考えてみる。
親方も修行中色々と漁港や市場、それに違うジャンルのお店など色々連れて行ってくれた。刺激が大事、確かに親方の言う事とおんなじだ。
「ん…、分かった。モモコ
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